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第11話 これがオフィスラブってやつですか。違うそうじゃない。

俺はその日一日、山程押し付けられた仕事をこなすべく淡々と仕事に打ち込んだ。課長はこっちを見もしないから目を合わせることもほとんどなかったくらいだ。 「平和だ……」 ゲイのフリしなくていいってパラダイスじゃん。改めて平凡な日常に感謝。 仕事は溜まってるけど。 ああこれ、月曜のうちにどれくらいこなせるかで後が決まってくるな。俺は夏休みの宿題を休み明け前日に慌ててやったりしなかった。夏休みの最初に全部終わらせてからどちゃくそ遊ぶタイプなんだ。 だから残業申請して、今夜勝負をかける。 申請を出す先は課長だ。この日の夕方になって初めて課長と会話した。 「新木は今夜残業か」 「はい」 あんたのくれた仕事のせいでな! 「あまり遅くならないように」 「はい」 へーへー。わかりましたよ。 そして殆どの社員が帰宅する中、俺は残って机に向かっていた。 「じゃあ、新木さんお先です」 「山脇さん手伝ってくれてありがとうね。お疲れ~」 「はい。また明日」 「はーい」 山脇さんはよく気がつくし癒し系な雰囲気の一個下の子だ。すげータイプってわけじゃないけど全然アリ。といっても彼氏いるから恋愛対象外だけどね。 「っしやるか…」 勤務時間中は他の人に話しかけられたり電話の対応もあって自分の作業がなかなか進まなかったりするけど、残業タイムに入ると誰も話しかけてこないから集中できる。 日中の数倍のペースで俺はゴリゴリに仕事を進めていた。 時間を忘れて作業してたら足音がした。誰かが忘れ物でも取りに来たのか? 時計を見ると21時半。わざわざ戻ってくるなんて、誰だ? 入り口側を振り返ったらそこには課長がいた。 「わ、か、課長。お疲れ様です。どうしました?」 「お疲れ。これどうぞ」 課長は手に紙袋をぶら下げていた。 受け取って袋の中身を見たら、近所のカフェのコーヒーとサンドイッチだった。 「わー、ありがとうございます!いただきます」 気づいたらめちゃ腹減ってた~。 二人分あるから、一緒に食べるつもりなのだろう。 ーーーって待てよ。今までの課長ならこんなこと絶対しないぞ。 まずい。やはり付き合ってることになってるのか。 「どうした?ここのサンドイッチ嫌いだった?」 「あ、いえ。いただきます」 とりあえず頂いたもんは食べる。 あ。 「そうだ、昨日はおにぎりありがとうございました。美味かったです」 「ああ、良かった」 課長はいつも会社で見せる厳しい顔じゃなく、週末を一緒に過ごしたときみたいな優しい顔で微笑んだ。 俺だけに見せてくれる彼の特別な顔。これぞまさにオフィスラブ♡ じゃねーーー!!! 「また週末奏太のご飯作らせてよ。休みの日だけでも美味しいもの食べさせてあげたいから」 だあああ甘い甘い脳が溶けそうやめてくれ!俺はこれからまだ仕事すんの! 「いや、でも、さすがに悪いので……」 「彼氏のわがままだと思って、ね?」 無理。だってまた課長んち行ったらどーせあんなことやこんなことになるんだろ。もう俺の人生経験に深みはこれ以上いらん。 急に顔に手が伸びてきて俺はビクッとした。キスされるーーー!? 「待っ……!」 課長は親指で俺の口元を拭ってその指を舐めた。 「マヨネーズ付いてた」 ニコッと笑う顔を見てるだけで心臓がバクバクしてくる。 「まだ残る?それともそろそろ上がる?」 「……月曜なんで……あと少しやったら上がります」 「そう。じゃあ俺は先に帰るよ。お疲れ」 課長はそれ以上ベタベタしたりはせずに俺を残して帰っていった。 「だめだもう今日は集中できそうにない……」 冷めかけたコーヒーを一気飲みして俺は切りの良いところまでやってすぐに帰った。

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