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第2話 手(1)

「すみません、本当にすみません……っ」  上映が終わると同時に意識を取り戻した青年は、碧に向かって平身低頭した。 「まさかこんなに深く眠ってしまうとは思わなくて……本当に申し訳ありませんでした」  よく見るとなかなか整った顔立ちをしており、彫りの深い鼻筋が、横から見上げるときれいだった。二重のはっきりした明るげな顔立ちに、碧が予測したよりさらに十センチほど上背がある。そして、目の下に寝不足を表すクマがうっすらと。  長身にもかかわらず威圧感を感じさせないのは、柔らかな物腰と、立て続けに頭を下げながら恐縮している、態度のせいだろう。  しかし、枕にされたのは事実だが、許容したのは碧の気まぐれにすぎない。ここまで頭を下げられては、親切の押し売りになってしまうと思った碧は、思わず口走った。 「大丈夫です。僕、人の身体に触る仕事してるんで」 「えっ」 「あっ、違くて……!」  変な言い方が誤解の元になることを、つい忘れてしまっていた。碧は洗いざらしのコットンシャツにジーンズ姿で、やり手のホストには見えないし、女性を転がすジゴロにしても、華奢で色気がない。 「リフレクソロジー、ってわかりますか?」 「確か、足ツボマッサージ、みたいな……」 「そう、それです。店がこの映画館の近くにあるんで、気が向いた日に映画見て帰るのが楽しみになってて。ですから、気にしないでください」  慌ててそう説明すると、青年はやっと納得した顔をした。 「そうでしたか。あ、そうだ。申し遅れましたがわたくし、こういう者です」 「あっ、ご丁寧にありがとうございます。僕は……」  互いに名刺を交換し合ったところで、顔を見合わせて笑ってしまった。 「とりあえず出ましょうか」 「そうですね」  まだ館内にいることに気づいて碧が促すと、青年が従った。

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