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第8話 治療デート(1)

「それ、デートなんじゃないの? しかも毎週?」  男性専用リフレクソロジー専門店『mori』のバックヤードで顧客情報の入力作業をしていると、同僚の二木が話しかけてきた。碧の勤める『mori』は都内に二十五店舗を展開している、主にエグゼクティブの男性向けにサービスを提供する店だ。  六本木店は銀座本店に次ぐ客数を誇っており、固定客も多い。新宿店でずっと働いていた碧が六本木店に引き抜かれたのはまだ半年ほど前のことだったが、既に獲得した常連客からは、かなりの数の指名が入るようになっていた。  男性専用の店と謳っているだけあり、従業員にも同性愛者が多い。わざわざ確認を取りはしなかったが、二木はそっち側の人間で、恋の話も偽りなく言える、気の合う同僚だった。 「まあ毎週かな。でも試写会までだよ。あと、デートっていうより治療?」 「なにそれ。煮え切らないなぁ」 「はは。嫌なら僕から持ちかけたりしないよ」 (俺は、すごく心地よかったです)  あんなことを臆面もなく言ってくれる人に初めて出逢った。この手を肯定されたのが、思いのほか嬉しかったのだと、今になって碧は思う。  早番の二木を前に、碧が入力の手を止めると、不意に表のドアベルが鳴った。 「いらっしゃいませ、白鳥さま。二時のご予約でございますね」  表の受付を任されている従業員が、客の到着を知らせる声を上げる。同時に各従業員の名札のあるバックヤードへと続くベルを鳴らし、担当者に報せが入る仕組みになっている。  碧は自分の名札のベルが鳴ったことを確認し、急いで入力作業を終わらせ、接客に出た。

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