7 / 53

第7話 縁再び(3)

「人気作品の光と闇ですよね……好きだからこそ、きれいごとでは済まない、っていう」 「そのまんま、『グッドマン』のテーマですよね」  ため息をつく武彦に、思わず苦笑を漏らす。  碧は武彦の飾らない人柄に好感を持つと同時に、何か自分にできることはないかと、お節介にも考えはじめてしまう。それは自分の性指向と不可分にできない感情だったが、この時はまだ純粋な好意に近かった。 「……よければ、協力しましょうか?」 「え?」 「あ、いや。リバイバル上映中だけでもしっかり眠っておけば、試写会でちゃんと起きていられるかもしれないですし。他のファンの人と話すの、僕は楽しいし……」  言いながら、我ながら相当胡散くさいな、と思った碧は反省した。 「いいんですか……?」  だから武彦が乗り気であることがわかった瞬間、碧自身にもよくわからない歓びが、胃の奥からせり上がってきた。 「僕はだいたい、金曜日のレイトショーにきてるんで、試写会までなら付き合いますよ。もし良かったら、ですが」  試写会までと期限を区切ったのは、そうでもしないと碧がズルズルいってしまいそうだったからだ。困っている人を見ると、つい放っておけなくなる碧の性質が、時々人を傷つけたり、誤解させることがあるのを知っている。だから普段は自重するのだが、酒のせいか、思いがけず『グッドマン』シリーズのファンに出逢えた嬉しさからか、反動が出てしまった。  おずおずと碧がビールのグラスから顔を上げると、武彦は思いの外、顔を輝かせた。 「じゃ、晩飯は奢らせてください」  それが、二人の間の約束となった。

ともだちにシェアしよう!