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第7話 縁再び(3)
「人気作品の光と闇ですよね……好きだからこそ、きれいごとでは済まない、っていう」
「そのまんま、『グッドマン』のテーマですよね」
ため息をつく武彦に、思わず苦笑を漏らす。
碧は武彦の飾らない人柄に好感を持つと同時に、何か自分にできることはないかと、お節介にも考えはじめてしまう。それは自分の性指向と不可分にできない感情だったが、この時はまだ純粋な好意に近かった。
「……よければ、協力しましょうか?」
「え?」
「あ、いや。リバイバル上映中だけでもしっかり眠っておけば、試写会でちゃんと起きていられるかもしれないですし。他のファンの人と話すの、僕は楽しいし……」
言いながら、我ながら相当胡散くさいな、と思った碧は反省した。
「いいんですか……?」
だから武彦が乗り気であることがわかった瞬間、碧自身にもよくわからない歓びが、胃の奥からせり上がってきた。
「僕はだいたい、金曜日のレイトショーにきてるんで、試写会までなら付き合いますよ。もし良かったら、ですが」
試写会までと期限を区切ったのは、そうでもしないと碧がズルズルいってしまいそうだったからだ。困っている人を見ると、つい放っておけなくなる碧の性質が、時々人を傷つけたり、誤解させることがあるのを知っている。だから普段は自重するのだが、酒のせいか、思いがけず『グッドマン』シリーズのファンに出逢えた嬉しさからか、反動が出てしまった。
おずおずと碧がビールのグラスから顔を上げると、武彦は思いの外、顔を輝かせた。
「じゃ、晩飯は奢らせてください」
それが、二人の間の約束となった。
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