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第10話 満月(1)
デートかもしれない。
碧は同性に恋をする。
でも、まだ武彦はそれを知らない。
すっかり遅くなってしまった夜道で、ともにアルコールが入っていい気分だった。
「どうせ選ぶなら長時間眠れる映画の方が良かったんじゃ」
「いや。どうせなら短くても好きな映画の方が俺はいいです。せっかく碧さんに付き合ってもらうんだし」
今日は同じ『グッドマン』シリーズの、観たい一本か、長尺の一本かで、ロビーにあるチケットカウンターで少し揉めた。
話してみると、武彦は芯の強いところがあり、碧のことを思いやる人だった。長尺の一本でも良かったのだが、碧が明日早番で仕事があることを告げると、それに合わせて早目に切り上げようとしてくれたのだ。
「僕は別に長くても暇だし、かまわないのに」
「碧さんは……」
武彦が言い淀むと、碧はすかさず振り返った。月が後方できれいに輝いている。夏の宵だった。
「さんいらないよ。ついでに敬語もやめません? 同い年だし。学年は一個僕の方が上だけど、もうそんなの関係なくない?」
碧が促すと、武彦は嬉しそうに笑った。
「じゃ、俺のことは武彦で。碧」
武彦の歩調の合わせ方に、碧はドキリとした。居心地の良い距離を、自然と詰めてこられる。一歩一歩、着実に、でも遊びを残しておいてくれるのは心地いい感じがして、警戒心が自然とほどけた。
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