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第11話 満月(2)

「そういえば来月の新作試写会」 「僕も、申し込んじゃった」 「当たったら一緒に行かない?」 「うん。あ、でもペアチケじゃないんだった」 「じゃ、観たら感想聞かせて。当たってたら」 「ネタバレ嫌じゃないの?」 「ネタバレしない感想」 「何それ、無理だって」 「その気になればできる。たぶん」  会話しながら、こうして武彦といると、とても楽だ、と思った。気負わず自分自身でいられる時間は、年を経るごとに減ってゆく気がする。 「きみといると落ち着くな。この距離感、なかなか素敵だと思う」  酔いに任せてそんな本音さえ漏れる。 「そう? 俺はもうちょい碧と仲良しになりたいけど」 「そうなの?」 「まあ、無理にとは言わない」 「そっか……」  そこに恋愛対象という意味は、入ってくるのだろうか。碧は誰も傷つけたくないと思い壁をつくってきたが、誰も好きにならないと思いながら、どこかでその壁を突き崩してくれる人が現れるのを期待してしまっているのを意識した。  でも、今は武彦と友だちのまま踏みとどまっていたい。  恋をするには、もう少し時間が必要だった。

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