12 / 53

第12話 牡蠣パーティ

 試写会のチケット当落日がきた。 「あー……」 「ハズレたー……」  次の週も、その次の週も、碧は武彦との逢瀬を重ねた。  逢瀬といっても色っぽいことは何もなく、互いに映画館のロビーで落ち合って、武彦が安眠するのを隣りの座席で確認し、『グッドマン』のリバイバル上映を鑑賞する。そのあとで飯を食いながら話をするのが楽しみで、変わっていることといえば、上映中に武彦と手を繋ぐことぐらいだった。 「倍率すごかったからなー……」 「僕、後発でも申し込んでたけど全部外れた。楽しみにしてたのに、悔しいな」 「封切りまでの辛抱だな」 「だね」  互いにスマートフォンを見てため息をつくと、月が正円形を描いているのに気付いた。不思議なもので、満月なのに少しいびつに見える。 「あ、碧。今日うちに寄っていかない?」 「え?」  映画館を出た武彦が、急に言い出した。 「実は今メール見たら、実家から大量の牡蠣が届くってあってさ。半分持っていくか、うちで牡蠣パーティしないか? 明日、仕事だっけ?」 「うん。でも遅番だから。実家どこ?」 「広島。ちなみに生食用殻付き十二個。できれば今日のうちに大根おろしか紅葉おろしで食べたい」 「広島かぁ。十二? それ二人でも多い気がするけど。いいよ。牡蠣パーティしよう」  言いながら、手近なところにある輸入食品店へ二人で入っていく。 「僕、殻付きのって食べたことない。フライぐらいしか」 「ご馳走するよ。全部俺がやるんで、碧はお客さんでいいからさ」 「やった」  碧がちょっと拳を握ると、武彦がいそいそと頼んだ。 「酒選んで。俺が持つから」 「きみ、わりと底なしだよね?」  バルで飲んだ時も思ったが、武彦はいける口すぎて同じペースで飲んでいると先に碧の方が潰れてしまう。呆れた口調の碧に武彦は、「ワインとビール、ついでに日本酒も」と注文をつけた。

ともだちにシェアしよう!