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第12話 牡蠣パーティ
試写会のチケット当落日がきた。
「あー……」
「ハズレたー……」
次の週も、その次の週も、碧は武彦との逢瀬を重ねた。
逢瀬といっても色っぽいことは何もなく、互いに映画館のロビーで落ち合って、武彦が安眠するのを隣りの座席で確認し、『グッドマン』のリバイバル上映を鑑賞する。そのあとで飯を食いながら話をするのが楽しみで、変わっていることといえば、上映中に武彦と手を繋ぐことぐらいだった。
「倍率すごかったからなー……」
「僕、後発でも申し込んでたけど全部外れた。楽しみにしてたのに、悔しいな」
「封切りまでの辛抱だな」
「だね」
互いにスマートフォンを見てため息をつくと、月が正円形を描いているのに気付いた。不思議なもので、満月なのに少しいびつに見える。
「あ、碧。今日うちに寄っていかない?」
「え?」
映画館を出た武彦が、急に言い出した。
「実は今メール見たら、実家から大量の牡蠣が届くってあってさ。半分持っていくか、うちで牡蠣パーティしないか? 明日、仕事だっけ?」
「うん。でも遅番だから。実家どこ?」
「広島。ちなみに生食用殻付き十二個。できれば今日のうちに大根おろしか紅葉おろしで食べたい」
「広島かぁ。十二? それ二人でも多い気がするけど。いいよ。牡蠣パーティしよう」
言いながら、手近なところにある輸入食品店へ二人で入っていく。
「僕、殻付きのって食べたことない。フライぐらいしか」
「ご馳走するよ。全部俺がやるんで、碧はお客さんでいいからさ」
「やった」
碧がちょっと拳を握ると、武彦がいそいそと頼んだ。
「酒選んで。俺が持つから」
「きみ、わりと底なしだよね?」
バルで飲んだ時も思ったが、武彦はいける口すぎて同じペースで飲んでいると先に碧の方が潰れてしまう。呆れた口調の碧に武彦は、「ワインとビール、ついでに日本酒も」と注文をつけた。
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