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第15話 拒絶反応(1)

 その次の週も、次の次の週も、当然のように碧は武彦と逢った。  逢瀬を重ねながら、次第に武彦の存在が馴染んでゆくのを感じる。左隣りに座る武彦が手を握ってくるのを、まるで待っているみたいに肘掛けに腕を置く儀式。武彦がそっと上から包むように手を握ってくれて、碧が掌を上に返すと、ぎゅ、と指を挟んで握られる。まだ少し明るさを残した上映前の映画館の中で、当然のように繰り返されるその動作が、次第に碧の羞恥をかき立てた。 (でも、今さら手を握らないなんて、できない……)  牡蠣パーティの夜を過ぎても、武彦は碧と普通の友人らしく接してくれている。だから余計に、あの夜のことを尋ねられないままだ。座席で手を重ね合いながら、悶々としたものを抱えた碧は、ついに「ちょっとごめん」と断りを入れてトイレに立った。  帰ってくると、予告編がはじまっていた。席に着いた碧を武彦が振り返る。肘掛けに手を置くべきか迷っていると、武彦がそっと耳打ちした。 「……大丈夫?」 「え? あ、うん……」  何が大丈夫なのか判然としないまま、碧は答えた。 「碧」  武彦は、当然のように肘掛けをポンポン、と叩いた。碧が躊躇っていると、次に耳打ちをされる。 「人の目、気になる?」  ドキリとした。暗くなってしまえば関係なくなることは理性ではわかっているのに、感情がうまく制御できない。 「べ、別に……大丈夫」  ぶっきらぼうな返答をした碧は、結局その日、武彦と手を繋いで映画を鑑賞したが、内容はほとんど頭に入ってこなかった。

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