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第16話 拒絶反応(2)

「碧、ルール変えようか?」  すっかり行きつけになったスペイン風バルでビールに口をつけていると、やにわに武彦が言ってきた。 「え?」 「今まで手を繋いでもらってたけど、気が乗らないのなら、いいよ」 「あ……」 「確かに、周りの目、気になる気持ちはわかるし」  へな、と武彦が笑う。それを見て、碧は胸がチクリと痛んだ。同時に、牡蠣パーティの夜の出来事にこだわりすぎて、意識してしまっているのは自分だけなのだと思い知る。  武彦の好意に甘える形でこの関係を続けてきたけれど、きっと武彦は、「もうちょい仲良くなりたい」のだろう。これ以上、武彦を受け入れるなら、碧ははっきり話さなければならないことがあった。この関係の初めから、碧に影響を与えている、ある事実を。 「今日は、ごめん」 「碧が謝ることじゃないよ。俺も甘えすぎたっていうか……、とにかく、俺も悪かった」 「そうじゃないんだ」  頭を下げる武彦に、碧は慌てて言葉を継いだ。 「言わなきゃいけないことがあるのに、隠してきたから……、でも、今日は正直に話すよ。もし、それで気持ち悪いって思ったら、その時は遠慮せずに切ってくれていいから」  碧が使った「切って」という鋭い言葉に、武彦は一瞬、眉を寄せたが、何も言わずに碧の言葉を聞く姿勢になった。 「ふたつ、秘密にしてたことがあるんだ。ひとつは、僕が同性を恋愛対象と思うってこと。もうひとつは、以前、勤めてた店のお客さんとトラブルがあって、今の店舗に引き抜かれる形で配属されてきたこと」  碧は新宿店から六本木店に引き抜かれる形で移動してきたが、それは新宿店にいた時に、ホストをしている客から、一方的な好意を寄せられたのが原因だった。真斗という源氏名のホストで、いつも碧に指名を入れてくれていたが、やがて高額と思われる腕時計やネクタイピンを、碧にプレゼントとして持ってくるようになった。  もちろん全て丁重に断り、持ち帰ってもらっていたが、やがて真斗の婚約者を名乗る女性が、店に押しかけてきたことから、ことは拗れた。

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