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第29話 告白(1)

 トイレから戻ると、碧は震えながら白鳥の傍らにきた。 「どうした?」  碧の様子に驚いた白鳥は、不安な面差しを隠したまま尋ねた。だが、そんな白鳥に応えることができず、碧は謝罪を述べた。 「すみません」  白鳥が何か言い出す前に、続ける。 「今日は帰ります。チケット、ありがとうございました」  これ以上、白鳥の傍にいられそうにない。武彦と知らないふりをしながら、互いに違う人を相手に会話を楽しむような、器用な真似なんてできない。  碧が店を出ると、白鳥が追ってきた。 「駅まで送ろう」  相当失礼な態度だったと思うのに、白鳥は何も言わず碧に並んだ。  乾いた路面が夜を反射している。対向車線のヘッドライトが次々と流れ、碧と、その隣りに並んだ白鳥を照らし出す。二人ともしばらく無言でいたが、やがて白鳥が切り出した。 「急に驚かせてしまって、すまなかった。気分を害したなら……」 「違うんです」  切り出した白鳥に、碧は首を振った。きっと、様々な葛藤が白鳥の中にはあるのだ。碧にカミングアウトするのに、どれほどの勇気を要したことか。胸の奥がじくじくと痛んで、白鳥に対する想いと、武彦への破れた恋情で、おかしくなりそうだった。 「僕はああいうところには行かないけれど、白鳥さんの仰るとおり、こちら側の人間です。でも、僕の我が儘に白鳥さんは付き合ってくれました。さっき、僕が嫌がる素振りを見せたから、きっと『mori』の「客」という立場から出ないようにしてくださったんですよね。なのに、僕は……、最低です。最低なんです」  滲んだ声を取り繕う余裕もない。本当なら、今からでもあのバーに戻って、武彦に弁解して縋りたかった。そうしたところで信じてもらえないとしても、投げかけた侮蔑の言葉を取り消したいと強く思う。一方で、再び拒絶されたら、もう立ち直れないだろうとも確信できた。

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