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第28話 代償(2)
「このバーに入っておいて、何も気づかないとか、言わないよな?」
「それは……っ」
「男しかいないことに、そういう場所だってことに」
「それは、それ、は……っ」
「それともカマトトぶってるけど、本当は相当遊び慣れてるとか?」
「なっ、ちがっ……!」
碧が思わずムッときて顔を上げると同時に、手首が軋むほど握られた。
「痛……っ」
「俺だけだと思ってた。違ったんだな」
責めるような目で言われる。けれど、そんな風に詰られる意味がわからなかった。
「……んで」
「?」
「何で、僕にそんなこと」
違ったなんて、こっちの台詞だと碧は思った。
「何で?」
武彦は皮肉げな笑みを、まるで心が痛むとばかりに浮かべた。だけど、それは碧も同じだった。
「あんたが特別だからだ、碧」
「っ……なんで、そんな……っ」
告白を忘れてくれと言われたが、全部碧は覚えていた。あの声の真摯さも、抑揚も、全部。
「俺なんかの特別になるのは嫌だったか? ま、連れの男の方がよっぽど人間できてるみたいだけどな」
「白鳥さんを悪く言うなよ」
「「白鳥さん」、ね」
これは碧と武彦の問題で、白鳥は関係ないはずだ。なのに、当て付けがましくあの男と言われると、碧がまるで一方的に悪い気がしてくる。
「あんた本当に鈍いっていうか……、俺の他にもいたんだな」
傷ついた顔をして言われて、思わずカッとなった。
「っそっちだって、相手連れてきてるだろ! 手まで握って……っ」
あの映画館で、碧にしたのと同じように。
それを見た途端、そんな資格も権利もないくせに、碧は頭の中がぐしゃぐしゃになった。
「僕たちは、別に……っ」
「碧」
「お互い様だろ!」
離せと言って、武彦の肩を押した。手首は思っていたより容易に外れ、武彦を押しやるようにして、碧はドアを開け、逃げるように店内へとまろび出た。
最後に武彦と合わせた視線が、強く脳裏に焼き付いていた。
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