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第33話 終焉の日
バーでの一件以来、武彦とは音信不通に近かった。金曜日の夜がくるたびに、碧は映画館に足を運んだが、武彦と出逢うことはなかった。
メッセージを送っても、既読がつくだけで返信はない。しつこく付きまとうなと言われているようで、碧は必要最低限のことを報せる以外、深追いできない状態だった。
白鳥は、あれきり『mori』に姿を見せない。予約は碧の知らないうちにキャンセルされており、急にこなくなったことを訝る従業員もいたが、やがて日々の業務に押し流されるようにして、白鳥のことは人の口に上らなくなっていった。
碧は六本木店の店長に、白鳥から直接、引き抜きを打診されたことを打ち明けた。その上で、自分が店を去るつもりはないこと、今後もう、白鳥には施術できないことを伝えた。
「じゃあ、副店長昇格試験、受けてみる?」
店長は碧の話を聞くと、けろりとした顔でそう言った。
「えっ……?」
突然の勧誘に驚いた碧に、六本木店をまとめる店長は、今時珍しい紙巻きタバコをくゆらせた。
「問題ないだろ? うちにこれからもいるんなら。それとも、何か思うところがある?」
前の店で問題を起こした碧を受け入れてくれただけあり、六本木店の店長は、度量の広いところがあった。だが、碧以外にも副店長昇格試験を受けるに相応しい人材はいる。なぜ今、自分が選ばれたのかがわからないと言うと、店長はけろりとした顔で言った。
「きみのことを引き抜く際に、調査会社を入れてある程度調べたんだよ。でも何も出てこなかった。それに、白鳥さんとは何度か逢っているが、無駄な動きをしないので有名なんだ。その彼が見込んだ腕なら、うちで抱えておきたい、というのが一点。勤務態度も真面目だし、今時ちょっといないほど、地味な裏方の仕事も手を抜かずやる。そういう人間が報われるべきだというのが一点。もう一点は、きみ、確かに腕がいいと思う。客が寝るでしょ? ノンストレスにならないと、なかなか寝落ちする客はいない。店内研修でも二木とかよく寝てるし。普段施術してる人間を寝かせる腕って、そうはないんだよ。それがだいたいの理由かな」
だから面倒でなければ、研修を受け、『mori』で偉くなっていって欲しい、ということらしかった。
本店勤務の二週間は銀座まで通うことになる。碧は悩んだ末に、昇格試験のための研修を受けることにした。
一応、武彦にはメッセージを送ったが、既読は付くものの、返信はなかった。
終わったのだと思うと、苦しかった。
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