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第34話 二時間半(1)

「はー……生き返る……」  ロッカールームで碧がため息をつくと、二木が「おつかれ」と声をかけてきた。 「碧さんいない間、結構大変だったんだよ。お客さんに比較されて、へこんじゃう人とか出たりして」  二週間に及ぶ研修を終えて、久しぶりに六本木本店に帰ってきてみると、羽根を伸ばす暇もないまま、次から次へと雑務に追われた。ムードメーカーの二木がいなければ、すさんだ気持ちで日々を過ごしていたかもしれない。 「にしても碧さんすっごいよね。『あの白鳥幸彦を寝落ちさせた男!』って巷で言われてるの知ってた?」 「止してよ、そんなんじゃないんだ」 「みんな知った上でやってるんだと思ったら天然だった、って驚いてたよ。おれも、「何でこの人、施術ちゃんとするのかな?」ってずっと不思議だったけど、別にスカウト狙いってわけじゃなかったんだね。ただの天然だった」 「二回も強調しなくてよくない? 僕そんなに抜けてないよ」 「はは。そう思ってんの碧さんだけだって」  二木は碧が帰ってくると、すっきり白鳥の件を笑い飛ばしてくれた。陰で噂されるより、二木のように言ってくれた方がずっと気が楽だった。

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