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第35話 二時間半(2)
「ありがとうね、二木くん」
碧がどれだけ救われたか、どう伝えればわかってもらえるだろう。
「へ?」
「いや、いつもさ。僕きみに助けられてるから。今回の研修だって、僕より勤務歴長いきみが行っても、全然おかしくなかったのに」
「何言ってんの。おれ、そんな野望持ってないもん」
「野望?」
「そ。店持つとかそういうのないない。それより自由に働きたい。風まかせに気ままに。その方が向いてるんだ、おれ」
「そっか……」
二木のような考え方は碧にはないものだったので、少し面食らった。だが、考えてみれば誰もが誰も、碧のように夢を追う人生を送っているとは限らないのだ。
碧は遅番の二木と入れ替わるようにして、ロッカールームで帰宅の準備をした。白鳥がこなくなって、碧がシフトの変更にもそこそこ応じられるようになったことで、六本木店の従業員たちも思うところがあったはずだが、今のところ、碧に不満を持つ者はいないようだった。むしろ、白鳥の引き抜きを断ったらしいと噂の立った碧に、以前より気安く接してくれることが多くなった印象だ。
碧は二木ほか、遅番でやってきた同僚たちに挨拶を返し、今日で最後になる『グッドマン』の最新作を観るために、映画館へと足を伸ばした。
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