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第39話 決断(1)

 館内から外へ出ると、碧は武彦にメッセージを送った。 『逢いたい』 『連絡ください』 『今夜、ご飯どうですか?』 『どうしても話したいことがあります』  立て続けにそれだけ書いて、既読が付かないことに焦れると、思い切って電話を掛けた。  レイトショーのはじまる時間帯だから、就業時間内ではないはずだ。残業したり、打ち合わせや、客先に行っている可能性はあったが、痕跡を残すことに消極的になっていた今までのように、簡単には諦めきれなかった。  今すぐ飛んでいきたい気持ちを抑え、コールを続けながら、だんだん碧は自分に腹が立ってきた。こんなになるまで拗らせて、放置しておいたのは武彦もだが、碧もまた別れを恐れて連絡をしなかった。バーで偶然出逢ったあの夜のうちに、白鳥と別れたあとにでも、ちゃんと話し合っておくことだってできたはずだ。傷つくことを怖れるあまり、傷つけることばかりしてきた自分を、許すことができない。  武彦が好きだと言ってくれた気持ちに甘えていた。傲慢だったから、こうなったのだと思った。  コールの数が十二回を超えて、さすがに迷惑かもしれないと思い、電話を切った。 (──何をやってるんだ、僕は……)  白鳥に逢ったことで感情が昂ぶり、不安定になっている。メッセージを送り、着信履歴も残した以上、もうできることは限られていた。もし、本当に今日中に連絡を取りたいなら、武彦のいるマンションへ行くしかない。 (さすがにそれは……)  空気も読めないのかと言われ、拒まれる可能性だってある。最悪、警察を呼ばれるかもしれない。さすがに何の予告もなしにそこまでしたら、迷惑行為になるだろうと思い、碧が躊躇っていると、不意に手に持ったスマートフォンが震えた。

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