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第41話 誤解と曲解と理解(1)

 久しぶりに見た武彦は、どこかすっきりした顔立ちをしていた。寝不足ぎみだったクマは消え、少し痩せたようだが、体調は良さそうだ。 「何か飲む?」  背中を見てそう感じた碧に、武彦は振り返り、冷蔵庫にあるビールを取り出しかけた。バーではち合わせたあの夜と違い、武彦は極めて平静だった。 「ごめん、今日はアルコールは飲まない」  不審な顔をする武彦に、碧は最後になるかもしれないなら、と丁寧に説明した。 「きみは底なしだけど、僕は弱いから。今日のことには、ちゃんと責任を持ちたいから」  それに、好きだと伝えるだけなら、誤解を解いても五分もあれば済む。武彦の部屋は、相変わらず『グッドマン』のアイテムがあちこちにあり、別れてもしばらくは、『グッドマン』を見ると思い出すのがつらくなりそうだった。  そういうことなら、とコーヒーを入れてくれようとする武彦に向かい、碧は口火を切った。 「先日の、あの、バーで逢った時のことなんだけど」  伝えることは三点だった。  ひとつ、あの店には初めて誘われて行ったこと。  ふたつ、白鳥に告白されたが断ったこと。  みっつ、武彦のことが好きなこと。  碧が続けようと息をした時、不意に武彦が口を開いた。 「あの時はごめん……!」 「え……?」  カップをテーブルに置いて頭を下げた武彦に、碧はぽかんとした。 「いや、ちが、僕の方こそ……」 「いや。あれは俺が悪い。碧が話があるっていうけど、俺も碧に話があるんだ。というか、謝らなきゃならないとずっと思ってた……誤解、させたこと」 「誤解?」  武彦が、バーで男性の手を握っていたことは事実だ。もしも武彦が異性愛者だとしても、隣りにいた華のある男性と親しげだったことは、嘘偽りがない。 「あれ、従兄弟なんだ。手を握ってたの。一兄……和泉一美って名前なんだけど、俺の上司で、同性愛者で、従兄弟なんだ」  武彦は言うと、気まずそうに頭をかいた。

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