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第4話 手(3)
本当は当たらずとも遠からず、なのだが、碧は無難な方の理由を説明した。
「冷たかったでしょ、僕の手。お客さんに不評なんです。だからいつもカイロ持ってて、それで温めてから触るようにしてるんですけど」
碧の手は体質なのか、客に驚かれるほど冷たいのだ。だから仕事で誰かに触れる時は、少しでも体温を上げてから触れるようにしている。
「夏でも?」
「夏でも」
「すごいですね」
「いや、というか、人の肌に触る仕事には、本来向いてないのかも」
照れ隠しに自虐すると、武彦はしばらく右手を閉じたり開いたりしながら、不意に笑った。
「でも俺は、すごく心地よかったです。何だか久しぶり、ってぐらいに、よく眠れました。ありがとうございました」
「いえ……」
じゃ、俺はこれで、と恥ずかしそうに踵を返した武彦を見送り、碧はほどいた左手を、きゅっと握った。
(ありがとう、か……)
武彦からの思わぬ言葉は、かたく閉じていた碧の心をふわりとほぐした。
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