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第31話 告白(3)
「きみの手に惚れている。きみの人柄にも。きみには人を熱狂させる、不思議なところがある」
ひしゃげた心が痛みに声を上げた。白鳥を熱狂させるものを碧が持っている、という事実は、過去に碧を利用しようとした真斗の事件を碧に想起させた。
碧は降りてきたそのイメージを振り払うようにして首を横に振った。
「だから……、だから身分を隠して何度もいらっしゃったんですか」
白鳥との間に、信頼と呼ばれるものが少しは築けたと思っていた。それが碧の一方的な思い上がりだったと知らされ、名刺を掴んだ指が震える。
「ひとつ聞くが、私が同業者だと知っていたら、きみは施術や接客に手を抜いたかい?」
「……いいえ。でもそれなりの対応をしたと思います」
「嘘だな」
「嘘なんかじゃ……」
首を横に振る碧に、白鳥は穏やかに続けた。
「きみはそんなに器用じゃない。話せばわかるよ。きみの接客スタイルは、きみの性格と不可分なものだ。誠実で、表裏がなく、人を癒そうとする意志が伝わってくる。努力もいるが、努力だけでは掴めない領域にきみの手はいる。誇りに思うべきだ」
白鳥の言葉は次第に熱を帯び、訴えるような口調になった。
「きみはいつもカイロを持っているね? その手は、本当は冷たいのだろう。でも私をはじめとする客のことを考えて、温めてから触れてくれる。自分を押し殺すようにして尽くしてくれるきみのスタイルに、私は衝撃を受けた」
「それが、何だっていうんですか。それぐらいのこと、誰でも……」
「いや。この事実は氷山の一角に過ぎない。きみという人間を見る上で、外せない要素ではあるが、全てではない」
白鳥は俯く碧を覗き込むようにして続けた。
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