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第43話 誤解と曲解と理解(3)
「そう、か……」
「僕には武彦しかいないから、白鳥さんでは無理だって言った。そしたら、どうしてもきみに逢いたくなって、電話とか、色々しすぎたかも。ごめん」
武彦はしばらく黙って碧の話を聞いていたが、やがて言った。
「こうなったら言っちゃうけど、二回目はわざと待ち伏せしてた」
「えっ……?」
いきなり話が飛んで、それが映画館での二度目の偶然のことについて触れているのだと、やっと気づいた。
「『グッドマン』シリーズ、好きだったし、眠れなくなって、リバイバルがはじまって半月ぐらいして、碧をいつも映画館で見かけることに気づいたんだ。いつも真ん中らへんの通路の前の席でひとりで観てるなって。それに気づいてからは、くじ引きみたいに隣りの席が当たらないかなって、チケット買うようになって」
そしたら偶然。
「僕の、左隣りが当たった?」
「うん、当たった。だから隣りに座ることにした」
「気づかなかった……」
最初からマークされてたなんて、視線も気配も、全く意識していなかった。
「不眠、ていうのは……?」
「それは本当。でもあんな風に眠ってしまったのは不意打ちだった。声かけるつもりも、なかったんだ。でも、面白そうに観てる碧見てたら嬉しくなって、きっかけも掴めたし、欲張ってもいいかなって」
「そうだったんだ……」
斜め横を見て後頭部をガリガリ掻きながら、武彦は少し耳を赤くしていたが、やがて碧に向き直った。
「ところで、碧が話したいことって、それで全部?」
「え、っと……」
「全部なら、俺の話がもう少しあるの、聞いてくれるか?」
「あ、あの……っ、まだ……!」
まだもうひとつ、言うことが残っていた。好きだと言いたいが、タイミングが掴めない。
そもそも、今、唐突に言っていいものなのかどうなのか、自分から告白した経験がなくてわからなくているうちに、武彦が話を進めた。
「いや。あってもまず俺から言わせてくれ。今日はわざわざきてくれてありがとう。それと、以前、俺が言ったこと、覚えてるか? 忘れてくれって言ったこと」
「あ……」
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