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第44話 誤解と曲解と理解(4)
武彦は言うと、真正面から碧を凝視した。碧はその圧に少し圧されるようにして、何となく俯いた。
「うん、覚えてる……」
「それ、思い出して欲しい。今から続きを言うから」
深呼吸を深くすると、武彦は碧の左手を取って、跪いた。
「好きです、碧。俺と、付き合ってください」
「っ……」
「二度と疑ったり、事情も知らずに詰ったりしない。投資してくれれば、リターンで損させないし、好きだから、ちゃんと愛することを誓う。だから、俺と付き合ってください……!」
武彦は、そう言うと、碧の手にそっと触れるだけのキスをした。
「碧……?」
そっと諭すように名前を呼ばれる。甘い声だった。碧は心臓がぎゅっと縮んで、トコトコと走り出す音を聞きながら、唇を噛んだ。
「ず、るい……僕が最初に言おうと思ってたのに、結局いいところ全部持ってくなんて、ずるい、武彦はずるい……っ」
「返事はできれば今もらいたいけど、考えたあとでもいい。……考える?」
「考えない……っ」
「じゃ、今もらえる?」
「っ」
「碧……」
顔中がちりちり火照って、うなじのあたりがピリピリする。潤んで、みっともない顔をしているのがわかるのに、一度目が合ってしまうと、武彦から視線を外せなかった。
武彦は頬を染め上げた切なげな顔で立ち上がると、碧をそっと引き寄せた。そのまま、こつん、と額が額にぶつかる。
「僕にも好きな人がいる」
「うん」
「誰か聞かないの?」
「うん。好きな人、いるんだ……?」
「いる……きみ」
「うん」
「きみが好きなんだ」
言うと同時に、言葉を食べられるようなキスをされた。
「ぁ……っ」
「俺も碧が好き。少しだけお邪魔するって言ってたけど、明日、仕事? 早番? 遅番? 休み?」
立て続けに尋ねられて、碧が首を横に振ったり縦に振ったりすると、武彦は婉然と微笑んだ。
「じゃ、今日遅くまで起きていても、大丈夫だ」
休日を確認すると、武彦は碧を腕の中に入れて抱き上げ、「寝室、行こう」と囁いた。
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