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第52話 暁(2)

「碧の手」 「あ、ごめん、冷たい……?」  指摘されて、碧が遠慮がちに武彦の身体から手を退けようとすると、それをぎゅっと握られた。 「してる時は熱いぐらいになるんだな」 「え?」 「昨夜、すごい熱だった。本気で感じてくれてるんだって、わかって嬉しかった」  気づかなかった? と問われ、首を振ると、武彦は満足げに目を細めた。 「碧の手は、冷たくても熱くても、本気なんだってわかる。俺は好きだ」 「あ、ありが……」  その先を続けることが、碧にはできなかった。飲み込んだ感謝の言葉とともに、食道の辺りから正体不明の熱が湧き上がってきた。この手に生まれて良かった、と、碧はほとんど初めて感謝した。 「俺だけが知ってる碧だ」   ずっと話せなかった秘密を分かち合ったように、満たされた碧は、誇り高く武彦が告げる声を食べるように、唇に思いの丈をぶつけた。 「……碧サン」 「ん? 何? 武彦」  ちゅ、とキスをしたあとで、武彦の身体に身体を寄せ、碧が顔を上げると、恋人は少し困った顔をした。 「制御、できなくなっちゃうと困るから、そのままで」 「あ……」  色めいた返事に、武彦の状況がわかり、パッと碧は身体を退けた。 「それとも──もう一回、する……?」  碧の鼓膜に武彦が悪戯を吹き込むと、背筋がぞくぞくと期待と快楽に染まった。

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