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第16話

「そう、じゃあOさんはもう帰ったの」  ホテルの脱衣所で泉は白石と電話をしていた。 「うん、未成年の子を連れ込んだだろって云ったら、わりとすぐに」  泉からメッセージを受けた白石は、すぐにOを呼び出したらしい。連れに十八歳の子がいたので退店させたと告げると気まずそうな顔で初めは何やかやと誤魔化そうとした。結局、葵の年齢は知らなかったのだと白をきり通したらしい。 「でも、その葵って子の学生証、よく確認できたな」 「たまたま鞄から落ちたのを俺が拾ってあげたんだよ。そしたら学生証に生年月日が書いてあって。問い詰めて注意したら不貞腐れてたけど、最後は大人しく帰ったよ」  泉は適当に話をつくった。 「ふうん?お持ち帰りはせず?」 「はっ?」  泉はどきりとした。 「だって十八なら酒はだめでも、性行為はいけるじゃん」 「お前なあ」 「冗談だよ。もう三十代以下の子は嫌だってお前云ってたもんな。助かったよ、ありがとう」  白石は笑いながら電話を切った。多分大丈夫だとは思うが、あの男はたまに変に鋭いところがある。ともかく、白石の店はいいところだ。大事にしたいし、これから先も末永く繁盛して欲しいと泉は思っている。  泉はなるべく声のトーンを落として電話をしていたつもりだったが、トイレの扉を開けると、上半身裸の葵が寝台の上で眼を開けていた。まだ夢見心地のような顔をしている。 「ああ、起こしちゃった?」 「ううん……そろそろ退室時刻かなって」 「宿泊コースに変更しておいたから明日の朝十時までは大丈夫だよ」  泉は携帯電話を置き、部屋の冷蔵庫にあったミネラルウォーターを開けた。葵のために新しいボトルを冷蔵庫から取り出そうとしたが、彼は泉が口をつけた方の水を欲しがった。 「葵くんさ」 「ねえ、泉さん、付き合ってる人がいるって云ってたよね?」  白石から聞いたことを問い詰めようとしたのと同時に、葵も口を開いた。 「……うん」 「どんな人?その人とはもう長いの?」 「うーん、そうでもないけど。葵くんとはタイプが違うかな」 「そうなの?じゃあその人、頭いい系?」 「そう、かな」 「ていうか泉さん、俺のことはどんなタイプだと思ってるの?」 「えっ……そう、だね。葵くんは、ええと、可愛い系なんじゃないかなと思うけど」  葵はぱっと顔を輝かせた。 「嬉しい。俺、もっと泉さんに気に入られたい」  セックスをする前よりも、した後の方が相手の細部に眼が行き届くのは何故だろう。葵は笑うと眼尻に跳ね上がるような皺が入る。頬骨のこめかみに近いあたりにほくろが一つ。  一時間と少し前、泉は葵と寝台の中にいた。  葵とのセックスは、身も心も冴え渡った儀式だった。結城の時とは違い、突き上げるような衝動や欲望とは無縁で、内心、泉は恐れながら慎重に事を運んだ。まず泉は、体を温めてリラックスさせようと、先に交代でシャワーを浴びることを提案した。  バスローブを脱がせながら、 「女の子としたことはないの?」  と泉が訊ねると葵は、 「女なんて好きじゃないもの」  と答えた。何かトラウマがあるという風でもなく、本当に、単純に全く興味が湧かないという答え方だった。  泉が(じか)に肌に触れた途端、葵の体に緊張の鋼が入るのが分かった。 「大丈夫?だめだと思ったらすぐに云うんだよ」  あらかじめ葵にそう伝えてから、泉は手始めに頬や首に軽いキスをしてみた。それらを受け止めるだけでも葵はひどく緊張した様相で、声を出す余裕さえないように見えた。事が始まる前、あれだけおしゃべりだったのが嘘のようだった。それでも葵は緊張と恐れの中で、確かに泉を求めていた。熱の籠った物云いたげな視線で見つめられ、唇にもキスを落としてみる。葵の肩がびくりと震えた。  それからは苦労した。しかるべきところに指を差し入れようとしても、葵の下半身は固い蕾のような状態で全く泉を受け入れてくれない。筋肉が完全に強張っていて、両足もあまり開かなかった。ローションの助けを借りて前の性器を刺激してやり、頭を撫でてやったり囁いてやったりと、根気強く接しているうちにやっと中指が一本入った。  だが指一本だけでも葵は激痛でも感じているのかというような表情で息を押し殺している。これでは今夜中に全て終わらせるのはもう無理だろうと泉が半ば諦めていると、葵が唐突に、 「泉さんの、()れてくれる?」  と訊ねてきた。 「えっ、でもまだ痛いんじゃないの?」 「大丈夫だから」  葵は抱いて欲しいと云ったのは自分の方なのに、体の方が全く云うことを聞いてくれないことに苛立ちと口惜しさを感じているようだった。  とはいえ、痛みを露わにしている若い子相手に昂奮する性癖は泉にはない。それに無理をして葵の体を傷つけてしまうのは避けたかった。そこで泉は、 「ちょっといい?」  と一言云って掛け布団の下に潜り込み、葵の性器を唇と舌で愛撫し始めた。慣れない感覚に葵が息を呑み込み、小さく声を漏らしたのが聞こえた。 「あ……だめ、……ねえ、それだめ、だって」  構わず泉は行為を続けた。ほんの少しだけ若い子の(うぶ)な狼狽を愉しんだ。性器に触れられているというだけで気持ちいいらしい。五分と葵はもたなかった。やがて腹に力を入れるような息遣いが漏れ、泉の口の中に温かいものが広がった。それまでの時間に較べれば、フェラチオをしていたのはごく僅かだった。 「……だめだって云ったのに」  あまりに早く達してしまったことに、葵はひどく羞恥を感じているようだった。 「ごめんね。でも今日は練習みたいなものだと思って」  泉は役目を終えたような気持ちで事後処理に務めた。

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