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第26話

 その日、葵を送って行く途中で、どうしてもと乞われて泉はホテルに車を入れた。 「今日は珍しくそういうこと云い出さないなとは思ってたけど」 「家にいる時はだめだって云われるかなと思って。ほら、子供が作ったものとか色々あったじゃん?だから、あそこでそういうことはしたくないのかなって」  駐車場でそんな会話をしてから、ロビーへ入り、部屋を選んだ。 「動画とか、色々観て勉強して来たからさ。今度は俺にさせてね」  シャワーを済ませた後で、葵は泉に抱きついて明るくそう云った。それならと泉は素直に寝台の上で横たわり、葵が自分のペニスを口に含むのを感じていたが、はっきり云って彼は口淫も手淫もあまり上手くはなかった。慣れていないのに喉の奥を使おうとした所為で、何度も嘔吐(えず)いている。眼尻からは涙が零れていた。一生懸命愛撫しようという気持ちは伝わってきたが、見ていられなかったので途中で押しとどめて交代すると云った。 「あんまり気持ち良くないんだね?そうでしょ」 「大丈夫、一生懸命やってくれるだけで充分嬉しいんだよ」 「子供扱いしないでよ」  葵はさっと怒りを滲ませて云った。 「優しくして欲しいんじゃない。好きな人を満足させたいんだよ。分かってよ」  その言葉に泉はあと少しのところで深い溜息を吐くところだった。だから若い子は嫌なんだと思った。自分が努力したとか一生懸命やってるとかそういったことばかりを押しつけて、こちらがうんざりしているのにも気づかずに。  けれど、返礼できないことの居たたまれなさは自分も知っている。でもそれはずうっと昔のことでそんな気持ちは忘れていた。 「うん、ごめんね」  そう云って泉は葵にキスをしてから、後ろを向くように指示した。たった今強気に出たくせに葵はさっと緊張の色を走らせ、泉が足に触れると体を強張らせた。 「大丈夫。痛くないよ。足の間を使うだけだから」  泉は足の位置を手で指定し、動かさないように告げた。そして葵の持ってきたローションを使って、葵の太腿の間にペニスを入れ込んだ。そこで抜き差しを繰り返しながら、後ろから葵のペニスを刺激してやった。体位だけは挿入行為に近い感覚があるだろう。葵は敏感ですぐに反応を示し始めたが、泉はうまく自分の性欲を引き出せなかった。この子は自分より海晴との方が、年齢が近いのだと思うとどうしても理性の方が勝ってしまう。そこでなるべく物理的な刺激だけに集中するために、泉は眼を閉じた。  次の瞬間、結城の姿が瞼に浮かんだ。最近はいつもこうだった。静かな部屋にいる時など、あの男が遠慮がちに自分を呼ぶ声が耳に響いて胸が絞られる。今、ここにいるのが結城だったら。そんなことを考えた途端、冷めていた泉の体に情欲の火が入った。あの甘い香水の匂いが鼻先に蘇ってきたような気さえして、現実を捉える力が麻痺していった。  結城くん。  結城くん。  何度も頭の中でその名前を反芻していた。  葵が達する直前に漏らしたかすかな声で現実に引き戻されそうになったが、結城といた時の陶酔を思い出して、泉は行為が与える快楽の中に沈み込んだ。

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