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17歳の夏3

僕はイジメを最大限に受け流す訓練をした。 何をされても、反撃は勿論泣いたり叫んだりしない。 それはかえって危険だと分かったから。 毎日の様に突き飛ばされても、ロッカーにガムをつけられても。 静かにやり過ごす。 するといじめる奴らも少しずつ減ってきた。 反応が無いから飽きたんだろう。 でも、アイツだけは違ってた。 執拗に僕を毎日毎日見つけては突き飛ばし、ジュースをかける。 名前はシェーン。 アメフト部に所属している熊みたいなズングリむっくりした筋肉男。 ゲイで中性的な僕が大嫌いらしい。 彼に見つからない様に見つからない様に生活するのが癖だ。 なのに、日曜日。学校外でバッタリ会ってしまった。 ママに友達とミュージカルなんて嘘付かずに家に居れば良かった。 「オイ!変態ガール!」 僕は早足でイヤホンの音楽を聴いているフリをして逃げる。 なのに、凄いスピードで追いかけてくる。 今日はシェーン1人だ。アメフト部の取り巻きは居ないから逃げきれるかも? 「オイ!!無視しやがって!!」 シェーンは僕に追いつくと腕を乱暴に掴んで路地裏へ引き摺り込まれた。 イヤホンを乱暴に取られ、投げ捨てられる。 「お前!いつもいつも無視しやがって!」 壁に激しく突き飛ばされ背中に激痛が走る。 「イライラするんだよ、その男のくせにキレイな顔も!クソっ!無視しやがって!何か言えよ!!」 首を絞められると思った腕は突然、顔をガシッと鷲掴んだ。 「何??」 突然、生暖かい感触が唇に触れる。 キス?? 混乱して硬直する僕の口に舌が入り込もうとして慌てて全力で胸元を押す。 アメフト部で鍛えられたシェーンはビクともしない。 怖い。気持ち悪い。誰か、、、 誰か助けて!! 無我夢中で手足をバタバタさせて抵抗する。 「オイ、君!何してる?!」 知らない男の声にシェーンの体が離れる。 「た、助け、、、」 「うるせぇな、オッさん!こっちは取り込み中だ!ひっこんでろ!」 シェーンの怒りに任せたパンチに、男性は手首を素早く返して華麗に避けた。シェーンはそのまま前に倒れる。 「路地に引き摺り込むのを見てたぞ。明らかに同意じゃないだろ」 「クソっ!!」 シェーンはそのまま走り去った。 「大丈夫かい?」 「僕の、、、僕のファーストキス」 号泣している僕に彼は辛抱強く付き合ってくれた。 肩を撫でながら落ち着くまで隣で宥めてくれた。 「大丈夫?落ち著いた?」 「はい、ありがとうございます」 「僕はライアン•グラント。君は?」 「カートです」 「さっきの彼は知り合い?」 「同じ学校の同級生で、、、僕をイジメてるアメフト部のグループです」 「さっきのはイジメの範疇も超えてるだろ?学校や警察には?」 「ママを心配させるから、、、表沙汰にはしたくない、、、です」 「ん〜でも、彼、次は何やらかすか分からないぞ」 確かに最近のシェーンは執拗だし、さっきのキスは本当に怖かった。 なぜキスなんてされたのかもわからない。 また涙が出そうな僕の頭をポンポンと撫でるとグラントさんは立ち上がり手を差し出した。 「カート、君今から時間あるかい?」 「え?」 「僕はすぐ近くで護身術の道場をやってるんだ。君さえ良かったら今から見学に来ないかい?」 グラントさんは38歳で、昔はキックボクシングの州チャンピオンだったそうだ。 キックボクシングの現役を引退してからは他にムエタイや合気道、太極拳なんかを学んで、今は護身術の道場を経営しているらしい。 僕は護身術なんか興味は無かったけど1人になるのが怖くてグラントさんに付いて言った。 彼の道場は雑居ビルの2階にあった。 道場の中には若い女性からママぐらいの40代ぐらいの人もいる。 「遅くなってごめん、彼はカート。見学に来てくれた」 「Hiカート」 知らないオバサンがニッコリ挨拶してくれた。 「ウォームアップはOkかな?じゃ、始めよう」

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