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17歳の夏8

待ちに待ったブレインとのデート。 大好きなミュージカル。 本当に夢みたいな時間だった。 ブレインは車で迎えに来てくれて、片道1時間程の場所にあるMcCarter Theatre Centerというレトロな石造りの古い劇場まで連れて来てくれた。 雰囲気も良いし、レントだって最高だった。 なのに、、、 ライアンの言葉が頭を過ぎる。 【男がそれだけで済むとでも?】 ミュージカルが終わって劇場を出ると急に不安が押し寄せた。 僕だって男だけど、男の気持ちなんてこれっぽっちも分からないよ。 この後、どうするのが正解か分からない。 だってデートなんて初めてだし。 僕は心の準備なんて出来てない。 ブレインは素敵だなと思ってるけど、まだ知り合って数週間。 だめだ、怖い。  「急に浮かない顔してどうしたの?」 ブレインが不思議そうに聞いた。 「何でもないんだ本当に。ごめんなさい、今日はもう帰るよ!じゃあまた明日!」 「カート?!」 ブレインに背を向けて走り出す。 「ストップ」 「!?」 急に身体が動かなくなった。 指一本動かせない。 沢山の人が行き交う劇場前のアークヒル通りで、僕の身体だけがピタッと静止している。 「行かないでカート」 ブレインの魔法? 「家まで送るから」 少し寂しそうなブレインが、僕の肩にポンと触れると急に身体に血が巡るような感覚と一緒に身体が動くようになった。 「この先のアークヒル街は夜になると治安が悪いんだ。家まで車でちゃんと送り届けるよ」

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