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17歳の冬3

クリスマスには赤いバラの花束と、いつもよりちょっとオシャレしたブレインが迎えに来てくれた。 白いシャツ、黒のジャケットコート。 僕もいつもよりオシャレしたんだ。 シルクのブラウスに、ブラックのベスト、細身のパンツ。コートはビンテージCHANELのロングコート。 「今日も素敵だね、カート」 「花束、ありがとう!ちょっと待ってて」 花束をお気に入りのアンティーク花瓶に挿す。 「さあ、クリスマスデートへ行こう」 ブレインは僕の手を引いて車へ案内してくれた。 初デートの時と同じ劇場McCarter Theatre Centerまで車で向かう。 ブレインとなら一時間なんてあっという間。 話上手で、話題も豊富、趣味も合う。 今日観る予定のムーラン・ルージュ。 キャバレー「ムーラン・ルージュ」で働くようになった作曲家クリスチャンと、そこで働くトップ女優サティーン、2人の身分違いの恋だ。 結末を知っていても、何度観ても世界観に引き込まれてしまう。 席は後方左の6列目だった。 ブレインも隣に腰を下ろす。何だか甘い香りがふわっと香った。 開演までブレインとミュージカル雑談に夢中になっていると突然、ガシャンという大きな音とともに照明が全部落ちた。 「なにかの演出かな?」  「多分、違う。カート」 ブレインが酷く動揺しているように見えた。 「大丈夫?」 「カート、迷惑かけてごめん」 その瞬間だった。劇場の後ろにあるドアが吹き飛び派手な音を立てた。 そして数人の男達が侵入した。皆んな銃を構えている。 気付いた客が叫び出した時だった。 「コレを君に託したい」 「え?」 古いスマホを渡された。 「僕を忘れないで。 また会えたら君とキスしたい」 「どういう事?」 「お休みカート眠るんだ」 そこで僕は気を失ってしまった。 その後の事は酷い目眩で記憶は曖昧。 劇場で気を失っているのを警察と救急隊員に起こされた。 「大丈夫かい?君!名前は?」 「ブレイン?どこ?!すみません僕と一緒に居た男子高校生は?ブレインはどこですか?」 「ここに倒れていたのは君1人だ。大丈夫かい?とにかく救急車まで行こう」 「僕より、ブレイン!!彼を先に!!探してください!!」 「おい、君、興奮しないで、名前は?落ち着いて」 僕はブレインを探すよう必死に警察に訴えたけれど、何故か彼の身元は分からず、救急車で診察を終えると一旦自宅へ帰された。 あの時、劇場に居た客とミュージカルに出演する予定だったキャスト達が一斉に気を失った。 翌日には地下からの有毒ガス発生が原因と説明されたけたど、僕はガスの匂いなんて感じなかった。 ガスなんかじゃない。 僕にはハッキリ聞こえた。 『僕を忘れないで。 また会えたら君とキスしたい』 『どういう事?』 『お休みカート眠るんだ』 この後に彼が精一杯の大きな声で『Sleep!!』と叫んだんだ。 ブレインはやっぱり魔法使いのように声で人を操れる。 あの瞬間、彼は声の届く範囲に居る全ての人を眠らせた。 観客があのまま逃げ回っていれば劇場へ侵入した男達に撃たれただろうから。

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