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18歳の夏4
「暑〜い」
夕方、いつものようにライアンの道場に向かった。
「ちょっ、カート」
暑くてシャツをパタパタさせてたらライアンからシャツの襟を直された。
「ライアン、暑い」
「キスマーク見えてるぞ」
「え、嘘!」
恥ずかしくて慌てて首元を押さえた。
「ちゃんとブレインに大事にされてるか?」
ライアンに優しく頭を撫でられる。
「だ、大丈夫だと思う」
「俺は今でもお前の事、ちゃんと大事に思ってるから。何かあったら言えよ」
「うん、本当にありがとう」
ライアンに突然、告白された時は本当にビックリした。
彼はノーマルだと思ってたし。
僕はブレインの事が好きだったからライアンからの告白は正式にお断りした。
でも、僕だってライアンの事は兄の様に慕っているし今だって大好きだ。
ライアンも今の関係は壊さないで居てくれた。
ブレインもライアンも地獄だった学園生活から救い出してくれた人。
僕の大切な人。
「カート、今日はキックボクシングやる?」
「うん、やりたい」
「じゃあ今日はミドルとハイキックを練習するぞ。
まずは左足を軸足にして直線上に踏み込む」
ライアンは時間が取れる時はマンツーマンで色々な格闘技や武術を教えてくれる。
「そのまま左足はつま先立ちになりながら、右手でバランスを取りつつ、膝から右足を高く上げる。
ああ、そうそう。力は必要ない。
脱力して回転しながら、右足を伸ばし切って蹴る」
脱力脱力。難しい。
「いいね、型は悪くない。力抜ける?」
「抜いてるつもりなんだけど」
「膝に力入ってるかな」
ライアンは僕の太腿を後ろから掴んだ。
「軸足もまだ弱い。安定させないとフラつくぞ」
ライアンはキックボクシングの州大会チャンピオン。教え方も上手い。
レッスン時間は集中していたからあっという間に終わった。
「カート、脱力を覚えろ。明日はもう少しキツイぞ」
「はーい」
道場を出てテナントビルの一階に降りる。
外に出ようとエントランスの自動扉の前まで行くとまた黒いバンが向かいに停車している。
フルスモークの車だ。
今日はブレインのお迎えもない。
「どうしよう」
家まで走る?
迷っていると車から人が降りてきた。
サングラスを掛けた男が2人?いや、3人。
皆んな身体は大きく筋肉質なのが遠目からも分かる。
辺りを見回していた男達はカートと目が合うとこちらへ向かって来た。
「どうしよう!」
道場へ戻ればライアンも居るけど、他のレッスン生の女性達もまだ居る。
アイツらが何者か分からない。
銃や武器も持っているかもしれない。
皆んなに怪我させられないよ。
は、走ろう。
僕はエントランスから飛び出して全力疾走で走り始めた。
走りながらブレインに電話を掛けたが出ない。
振り返って見ると3人の男達もこちらへ向かって走って来る。
この辺りは僕の地元。
抜け道には詳しい。
何とか巻ければ逃げ切れるかも?
路地を一本入った場所にある廃倉庫に逃げ込もう。
廃倉庫の鍵が壊れている扉を開けて中に入ると先客が居た。
「あんた、なんでここに居るのよ。お姫様」
「アマンダ?!」
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