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18歳の冬10
「最高だったね!生で聞くDon’t Rain on My Paradeは本当に最高、ああ、もうニューヨークに住みたい」
僕はこの後に控えるご挨拶の事もすっかり忘れてファニー·ガールに興奮している。
本当に素晴らしい舞台だったんだ。
俳優、歌、オーケストラ、演出、舞台装置何から何まで。
もっと余韻に浸りたいけれど、大人しく劇場出口へ向かおうとすると「こっち」、と出口に向かう観客の流れとは逆の方向へ手を引かれた。
「え?出口は後ろだよ?」
「いいから、来て」
関係者専用と書かれた扉から舞台裏に入る。
「え?勝手に入っちゃダメだよ」
「大丈夫だから」
ブレインはまるで劇場の舞台裏を熟知しているようにスイスイ人並みを掻き分け奥に進む。
「さあ、こっち」
手を引かれて、まだ熱気に満ちた舞台裏から楽屋裏まで来る。
「ここ」
そこには『ブライス夫人役 レイチェル·ハドソン』と書かれた楽屋前だ。
ブライス夫人?って事はファニー·ガールの主人公の母親役。
「入るよ」
ブレインは勝手にドアを開けると、そこには先程まで舞台に上がっていた女優が鏡の前に座っている。
「ブ、ブレイン急に入るなんて失礼だよ」
「母さん」
え?!母さん?!
うそ?!
ブレインのお母さんってブロードウェイミュージカル女優だったの?!
「ああ、ブレイン、久しぶりね」
「連れて来たよ、僕の婚約者」
ど、ど、どうしよう、びっくりし過ぎて、言葉が、、、
さっきまで感動していたミュージカル女優が突然目の前に現れたのに、冷静でいられる訳ない!!
ご、ご挨拶だ、考えてた!ご挨拶、、、
「あ、あの、、、サインください」
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