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20歳の暗い夏6
君の姿をいつも目が探してしまう。
寮でも、大学でも、偶然でもいいからカートを一目見たくて。
いつも、肩が触れる距離に居て、僕が笑うと君も笑ってくれた。
手を繋げば握り返してくれた。
いつも、君の匂いを感じられる距離に居てくれた。
どれだけ君の存在が大きかったのか思い知らされる。
カートは僕を避ける為なのか、カフェテリアも寮の休憩室も、大学までの通学ルートもいつもの時間に居ない。
「いつまでカートの居ない生活に耐えられるかな、、、」
もう早速、音を上げそうだ。
大学は夏休み。
2人で立てた夏休みの計画は、もう叶わないかもしれない。
カートと過ごすはずだった予定が無くなって、僕は無駄に大学の図書館に居る。
「やっぱり地の底まで落ち込みそう」
今は、グセフ共和国で調査しているエージェント•メイ達からの報告待ちだ。
昔から待つのは嫌いだ。
何も出来ずに落ち込んでばかりいる自分はもっと嫌いだ。最悪だ。
カートに何があったにせよ、カート自身が1番傷ついて苦しんでいるはず。
コードが泣いてたって言ってた。
愛する人が泣いている時に側に居てあげられないなんて情けないな。
ただ落ち込んでるだけじゃ意味がない。
「グセフ、、、グセフ共和国、、、」
図書館ではネットや古い本でグセフ共和国について調べている。
僕は名前すら知らなかった国。
つい18年前まで鎖国状態で他国との外交が極端に少ない貧国。
第二次大戦でイギリス統治から自治を取り戻したが何度か内戦も起きている。
綿花の栽培に銀の採掘が主産業。失業率が高く経済的にはまだまだ発展途上。
現在の王はアンドレア•スチュアート•グセフ。
アンドレア王の弟フィリップ•スチュアート·グセフが王位継承第一位。
カートが護衛についた王位継承第二位にいるレオナルド•グセフは弟フィリップ王子の息子でアンドレア王の甥にあたる。
写真を見ると、まだ若い王子は年齢よりも更に幼く見えた。黒髪に垂れ目、痩せていてどこか気の弱そうな少年。
WIAの資料にもアクセスしてみると、カートの指導係で失踪した教官のエージェント•ライナーからの最後の報告書があった。
カートの護衛も、脱出計画にも問題無いと書かれていたが最後に「レオナルド王子の言動に不審点あり。アンドレア王にコンタクトし慎重に確認中。コードtulpaの可能性」と書かれていた。
「コードtulpa?タルパ?かな?なんだ?」
タルパなんて言葉は知らない。
タルパ?
スマホで検索してみるとWikipediaにはタルパ(英 tulpa)の語源は、応身を意味するチベット語の名詞化(英語版)された動詞 སྤྲུལ་པ である。
と書かれている。
全然意味が分からない。
「どうするかな?誰か、、、あ、、、」
僕はリチャード先生の部屋へ資料を抱えて急いで向かった。
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