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第2話 情交の果て 其の二

 気配を探ればこの屋敷のどこかにいるのが分かって、ほっとする。 「……りゅう……」  そう呟きながら、いつの間にか竜紅人(りゅこうと)の名前を呼び、気配を追ってしまっている自分が恥ずかしくなった。 (……僕……こんなにも竜紅人のこと好きだったんだ)  胸の中に生まれる、むず痒いような想いが、身体中を駆け巡るようにして香彩(かさい)を襲う。  好きという感情に、全てが埋もれてしまいそうだった。  少し離れてしまったぬくもりを、再び欲しいと願ってしまう。  部屋の入口から彼が現れるのを、心待ちにしてしまう。  いたたまれなくなって、上掛けを被って部屋の入口から、そっぽを向いた時だった。 「──痛っ……!」  腰に鈍い痛みが走った。  下肢にはまだ竜紅人が、中にいるような感覚が残っている。彼の前で晒した痴態を思い出して、香彩の顔が赤くなる。  竜紅人をひどく求めて、そしてもっと自分を求めて欲しくて煽った覚えがあった。その時に自分が、あられもない淫声(みだらごえ)を上げながら何と言っていたのか、あまり記憶がない。 (……っ!)  気を失ってしまうまで求められ、身体の奥の更に奥を灼いた熱が後蕾から溢れ、太腿を伝う感触に、香彩は身を震わせた。  思わず上がってしまう声を、なんとか堪える。  一体どれほどの熱が、この身を灼いたのか。 (……どうしよう)  すごく恥ずかしい。  一体どんな顔をして彼を見ればいいのか、分からない。  それに。 (……あんな……)  はしたなく乱れた姿を見られてしまって、竜紅人はどう思ったのだろう。とんだ好き者だと思われてしまったのではないか。そう考えてしまうだけで、背筋をそして心を、冷たいものが伝うような気持ちになった。  手にいれてしまったら。  今度は失うことが恐くなる。  求めて、求められて。  こんなにも心が満たされて、幸せだというのに。 「……りゅう……」  頭から上掛けを被りながらも、香彩は無意識の内に竜紅人の名前を呼んでいた。  それは幼い時によく呼んでいた呼び方だった。今はもうあまり使わなくなったけれども、それでも竜紅人にお願いをする時は、この呼び方になっている自覚はあった。    その呼び声に応えるかのように。   「……かさい」  すぐ近くで竜紅人の声が聞こえて、香彩はどきりとした。

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