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第4話 情交の果て 其の四

 ああ、本当にずるい。  反則だと、香彩(かさい)は今一度思う。  そのぬくもりや、声、息遣い、動き、衣擦れの音。  その全てにこんなにも敏感になって、胸が痛いほど、どきりと脈打って堪らないというのに、どこか平然としている竜紅人(りゅこうと)が、愛おしくて恋しくも憎らしい。  そしてあれだけの行為の後に、特に疲れた様子も見せずに動き回ることが出来る竜紅人に、香彩は複雑な想いを傾ける。  人と竜は体力的にも、やはり違うのだろう。  いま、竜紅人と同じように動けと言われても、きっと無理だ。ようやく腕に力が戻ってきたところで、身体の全てが気怠く、足に至っては力を入れようとすれば、ふるりと震える始末。  それだけ体力が違うということは、やはり足りないんじゃないだろうかと、香彩はふと思った。 (……満足、して貰えたんだろうか)   それともやはり、手加減されたんだろうか。  容赦はしないが優しい彼。  優しいのに時々、愛しい怖さを感じる。  大丈夫かとこちらをいたわりながらも、時折酷く嬲り、甘い言葉を囁きながら(さいな)む。  欲しいが過ぎれば、身体を持って駄目なのだと教えるように引かれ。  熱い息が上がり空気に混じれば、それすらも自分のものだから赦さないとばかりに、唇で塞がれる。  熱で掠れた甘い声は、慈悲のない『竜の(こえ)』へと変わり、その中に含まれる意思を読んで、望む体勢へ身体を動かせば、揺らし、焦らしながらも、やがて自ら求めて煽って追い詰められ、果てる。 (──ああ)  熱は。  そして欲は。  本当に際限がないのだと、思い知る。  身体を繋げ、一番奥に熱を放たれた時、ああ彼に縛られたのだと思った。  身体から溢れんばかりの、甘くて濃厚な御手付(みてつ)きの香り。そして彼の『竜の(こえ)』や神気に敏感に反応し、身体も心も竜紅人という存在に、絡め取られたことを知った。  あの獣のような、ぎらついた目を思い出す。  あの伽羅色の瞳に見つめられて甘い言葉を、そして時折意地悪にも(さいな)む言葉を囁かれて、気が狂うほど、責められたい。  もうどうか離れないで。  ずっとそばにいて。  僕だけを見て。  誰も見ないで。  僕に溺れて、翻弄されて。   「……りゅ……う……」  香彩はぼぉうとした心地で、障子戸に向かって歩く竜紅人の後ろ姿を、見ていた。  下袴だけを履いた、その姿。  まるで無駄な造作がひとつもないような、引き締まった綺麗な背中。  その中に幾筋もの線のような傷を見付けて、かぁっと、香彩は顔と身体が熱くなった。      

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