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第19話 夢囚 其の二★

 あの夢の最後の体勢だと、ようやく気付いた竜紅人(りゅこうと)が笑みを深くする。  深く繋がりながらも竜紅人は、先程のように性急に求めることはしなかった。  髪を唇で愛でている香彩(かさい)は、胸を竜紅人に向けて舐めてほしいとばかりに、突き出すような格好をしている。  背中を支えながら回した手で、片方の胸の頂きを捏ねて、もう片方の頂きを唇に含んで、吸い上げながらも舌で転がせば、香彩は思わず上体をのけ反らせた。 「ん……それっ……ぁっ、ん……」  「……好き?」 「ん、すき……」  香彩が声なき声で接吻(くちづけ)を強請る。  その言葉に応じて竜紅人は噛み付くように口付けた。何か言いたそうだった言葉を、声ごと飲み込むように舌を絡めて吸い上げる。  ゆっくりと奥で回すようにして腰を使えば、香彩は堪らないとばかりに、くぐもった声を喉の奥で出して喘ぐ。  ちゅ、と音を立てて唇が離れると、吐息混じりの艶声で香彩は言うのだ。 「はぁ……っ……塗り替えて……あなたの夢を……んっ、あの時と……」  同じようにして。  もう夢だと思わないように。    再び香彩が愛しげに、竜紅人の目蓋や鼻梁を啄むように口付ける。  背中を撫でながら竜紅人が突くと、香彩は可愛らしい喘ぎ声をこぼしながら、震える腕を甘えるように、もしくは縋るように竜紅人の首に回した。  やがて香彩の腰を支えながら竜紅人が、ゆっくりとした動作で仰向けに寝る。  ああ、あの時と同じ体勢だと香彩は思った。  眠らせた竜紅人に跨がり、後蕾に男根を擦り付けたあの時と。  違うのは腰を掴む竜紅人の手の熱さと、全く痛みを感じることのない濡れそぼつ後孔。  そして香彩を見る、熱に濡れた伽羅色。 「……あの時、思った」 「えっ……? ん……」  軽く突き上げられて、香彩は吐息とともに声を漏らす。 「お前が少ししか慣らしていない後蕾(ここ)に、俺のを挿入(いれ)た時、とても痛そうな声が聞こえて……」 「んっ……」 「きっと少し裂けて傷付いてしまっただろう中を、綺麗に治して……指と舌を使って、思う存分に啼かせて、ぐずぐずに蕩けるまで解してやりたいって、思った」 「あ……っ!」   竜紅人は香彩の細くしなやかな腰を強く掴み直して、思い切り突き上げた。 「──や、あぁぁぁっっ!」  耳触りの良い濡れた艶声が上がる。 「そう……っ、この括れた……細腰を掴んで、思い切り……突き上げて、啼かせてやりたいと……思った……!」 「あ……、っは……っ」 「あの時だけじゃない。この心を自覚した時から……ずっと……、俺の匂いしかしないように、胎内(ここ)に注いで俺ので蓋をして、それでも溢れるほど注いで」 「んんっ……」 「快感で善かりながら(かぶり)を振って、甘い声を上げるお前を……枯れるまで啼かせたいと思った」 「あ……ん……っ」  白い肢体を仰け反らせて、湧き上がる悦楽から無意識の内に逃げようとしても、腰を掴まれて、ぐっと押さえられてしまえば、それも儘ならない。  突き上げられた先にある結腸の蕾を、雄の先端で擦り付けるように腰を回されれば、あまりの気持ち良さに艶声も出ず香彩は、はくはくと口を動かした。  痺れるような感覚に身悶える。  もっと欲しくて欲しくて堪らなくなって、媚肉を衝き挿すその衝撃に身震いする。  竜紅人はそんな香彩の様子を見ながらも、これ以上突き上げることはしなかった。ゆっくりと腰を引いて、香彩の一番弱いと思われる腹側の凝りに、張った雁首を引っ掻けるようにして宛がう。  今日初めて肌を交わして、充分満たされたのだと香彩は思っていた。執着や嫉妬、そして愛しさで、これでもかと愛されたというのに。  この体勢によってもたらされる、抗えない快楽を知ってしまった香彩の陽物は、蒼竜の鋭尾で蓋をされているというのに、つつと、透明な蜜をはしたなく流して、竜紅人の腹を濡らすのだ。  そしてあの時、彼は眠りの気配を残しながらも、その意識は実は夢現(ゆめうつつ)をさ迷う半覚醒だったことを知って、快楽とはまた違う感情で香彩はふるりと震えた。  自分がどんな手管で彼を胎内(なか)へ咥えるに至ったかを、彼は夢現(ゆめうつつ)の狭間で見ていたのだと改めて知って、恥ずかしくていたたまれない。  そう思うのに香彩の胎内(なか)は、香彩の意識とは裏腹に、きゅうきゅうと悦んで彼の男根を締め上げる。 「……くっ」  竜紅人の苦し気な声と荒々しい息遣いに、身体は更に熱くなった。  自分で感じてくれているのだという気持ちと、何よりあの時から自分のことを、こんな風にぐずくすに蕩けるまで解して、突き上げたかったと思っていてくれたことに、嬉しくて堪らなくて気分が高まる。

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