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第20話 夢囚 其の三★

 香彩(かさい)は剛直の感触を探すように、愛おしげに自らの薄い腹を撫でた。  この中に想い人の劣情を咥え込んでいる。その現実は脳を揺さぶるほど甘く、蠱惑的な陶酔を引き起こした。 「……りゅ……う」  甘く想い人を呼んで香彩は、竜紅人(りゅこうと)と視線を合わせる。  熱くてぎらついた伽羅色が、自分を下から見上げているのだと思うと、蓋をされた陽物から再び、つつと、彼の腹に蜜が落ちる。 「……あ……」  つん、と竜紅人が香彩の一番弱いところを軽く突き上げる。  そのまま強く突くのかと思い、刺激に身構えるが、その衝撃は一向に訪れない。 「……動けるか……? かさい」 「あ……」   その意味を知って香彩は、ふるふると、もう何度目になるのか分からない(かぶり)を振った。  気持ち良すぎて動けない。  そして何より、どうやって動いたらいいのか香彩は分からなかった。竜紅人の上に乗ったのは、あの時が最初で最後だった。あの時ですら、本能に突き動かされた竜紅人の腰の動きに翻弄されて、付いていくのがやっとだったのだ。  つん……つん、と。  少し間隔を開けながら、ゆっくりと腰を使われて、腰の奥で生まれる甘い疼きが背筋を駆け上がる。  ほとんど無意識だった。  竜紅人の腰使いを追う様に、そして生まれ行く快楽を素直に追う様に、ぎこちないながらも香彩が腰を動かす。 「そう……ゆっくり、お前の()いところに宛てて、動かして」 「──あ……っ!」  その声が狡いのだと香彩は思う。  甘く低く掠れて。  諭し導くような言い方をしながらも、 「ゆっくり、一番奥まで挿入(いれ)て……そう、ゆっくり……腰を回して、かき混ぜて」 「……んんっ!」  淫らな物言いをする竜紅人が、本当に狡いのだと思う。  その声に導かれる、ただそれだけで香彩の腰が震えて、息が詰まる。湧き上がる快楽から逃げたくても、竜紅人の両手は支えるようにしっかりと、香彩の腰を掴んでいた。  荒々しくもようやく息を吐けば、甘く快い震えが全身に広がる。   「そう……上手だ、かさい……」  「あ……んっ、んっ」   決して竜の聲ではないというのに、彼の声に導かれて褒められる。それだけで心が身体が悦んでいるのが分かった。 「りゅう……っ」 「お前も……塗り変えてくれ」 「……っ!」  竜紅人の言葉に快感に蕩けながらも、香彩は目を見張った。  ゆっくりと揺れながらも、腰を持っていた竜紅人の両手が、香彩の両手を掴む。そして指を絡めてしっかりと握り締められた。指と指の隙間に、竜紅人の形の良い長い指を感じて、心が昂る。 「お前も……あの時のことを塗り変えてくれ。もう罪悪感なんて感じてくれるな」 「──あ……」  見破られたと、思った。  初めて竜紅人にあの時のことを話して赦されて、肌を交わして。それでも心の奥で燻っているものを、竜紅人の囚われた夢を通して、先程気付かされたばかりだというのに。 「どう……して……?」  香彩の戸惑う言葉に、竜紅人は男くさい笑みを浮かべて、くすりと笑う。 「お前のこと……何年見てきたと思ってる? お前の性格だと、すぐには無理かもしれない。だが丁度あの時と同じ体勢だ。今が……あの時だと思って、俺を……感じてくれないか? かさい……」 「……りゅ……う……」  そんなこと気にしなくてもいいのにと、香彩は思った。何も気にしなくていい。自分のことも気を遣わなくていい。ただ竜紅人の為だけに、この行為はあるというのに。  優しいものに包まれるような感覚に、香彩は不思議なほど心が素直になるのが分かった。  感じるがままに。  そして快楽に素直に。  竜紅人の言葉通りに香彩は、複雑な図形を描くように、ゆっくりと腰を動かす。  やがて身体をくねらせ上下し、熱く滾るものを出し入れすれば、胎内(なか)は従順に蠢いて、竜紅人の屹立を舐めしゃぶる。 「んんっ……、あ…ぁ…ぁあ……んっ……」  先程よりも更に柔らかく、そして甘くなる香彩の艶声。  艶やかで瑞々しい白桃のような丸い臀部が、竜紅人の上で跳ねれば、まっすぐで長い香彩の薄藤の髪が、鞭を振るうように、しなやかに揺れた。 「……っ、かさい……!」 「あ──」  緩やかな刺激に耐えられなくなったのか、竜紅人が香彩の手を離して、再び腰を掴み直すと、ずんっと奥へ突き入れる。

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