73 / 409

第73話 竜形 其の一★(※竜姦注意)

「……どうしたの? りゅう……」   まるで慰めるように香彩(かさい)は、幾度も蒼竜の口吻(こうふん)に、触れるだけの接吻(くちづけ)を落とした。背後から押さえ付けられている体勢の為か、あまり広い範囲に口付けることは出来ない。それでも身体を捻らせて、届く範囲に軽く音を鳴らして、香彩は何度も何度も口付けた。  人形(ひとがた)であれば、きっと竜紅人(りゅこうと)の鼻梁や口元、そして頬に唇を落としていることになるのだろう。そう考えれば恥ずかしさの方がまだ先に出る香彩だ。  蒼竜が再び少し高い声を出して唸る。  その思念は香彩の脳内に伝わることはなかった。だが音の持つ雰囲気で、何が言いたいのかよく分かる。  「……お前なぁ……」と、ため息混じりの言葉の中に、呆れ半分堪らなさ半分の感情が、入り交じった音だ。  そんな音に甘さが加わった。  蒼竜は香彩の頬に自分の口吻(こうふん)を擦り付けたと思いきや、それは少しずつ下がり、細い首筋へと辿り着く。  長い舌が鎖骨を這った。舌は衣着の合わせ目からするりと中へ入り込み、やがて胸の頂きに達する。 「……ぁっ」  次第に硬くなっていく頂きの感触を楽しむように、舌の腹の部分で押し込むような動きをした。  やがて充分に勃ち上がったことを確認したのか、細くなった先割れの先端をくるりと頂きに巻き付けると、締め付けながらも引っ張られる。 「……っひ、ぁ! っ、はぁっ……」  弱い部分を責められて、香彩は堪らず切なげな声を上げた。  気付けばぬるりとしたものが、股座に擦り付けられて、身体をびくりと震わせる。  それは明らかに人とは違う、二本の異形の陰茎だった。 「……んんっ」  頂きの刺激によって勃ち上がった香彩の陽物の裏筋に、ぬめりと舐め上げ添うかのように宛がわれたのは、一本の剛直だ。それは凹凸があって、人形(ひとがた)の時よりも太く硬く、てらてらと滑り光る濃桃色をしている。  蒼竜のもうひとつの陰茎は、双丘の割れ目の柔らかさを堪能するかのように、香彩の(いざらい)の肉に挟み込まれていた。時折蒼竜の腰が揺れ動けば、陰茎の凹凸が後蕾を襞を(めく)り上げる。  その何とも言えない悦楽に、香彩は艶声を出しながら、荒い息をついた。  ふわりと香るのは甘い、御手付(みてつ)きの香りだ。  それは蒼竜のことを考え、蒼竜の手管によってより濃厚さを増していく。香彩の胸の頂きを長い舌で執拗に攻めながらも、蒼竜は首筋に(うず)めた口吻(こうふん)で匂いを嗅ぐと、満足そうに唸ってみせるのだ。 『──かさい……』  まるで赦しを請うように思念で名前を呼ばれて、香彩は再度、びくりと身体を震わせた。 『熱を……分けてくれ、かさい。少しだけでいい。お前の胎内(なか)に入って、お前の熱を感じたい……』  頼むから俺を包み込んでくれ。    聞き馴染んだそれよりも低く甘く、それでいて上擦った声が脳内を灼く。  逃げようのないそれに、身体の力が抜けていくのを、香彩は何とか耐えた。日頃から好い声をしていると思ってはいたが、色気を滲ませ、懇願を含んだ切ない声色が混じるだけで、こうも変わるとは思いも寄らなかったのだ。  竜紅人の声に頭の中を、そして理性を司る精神そのものを、掻き回されて犯されているような気がした。 「──ぅ、んっっ……!」  びゅう、と。  先走りの蜜を足らしていた陽物から、白濁とした凝りが漏れ、すぐ下に添えられていた蒼竜の陰茎に、はたはたと落ちる。  頭の中を占める声だけで、軽く達してしまったことに香彩は動揺した。  だがそんな心の揺らめきも、全て竜紅人の声で掻き消される。 『罰が発動した時……寂しそうな顔をしたお前が忘れられない』 「……っ、違……んっ……」  声に一度犯された脳内は、敏感になるのだろうか。蒼竜が思念で話す度に、びくり、びくりと動き出しそうになる身体を、香彩は耐える。  自分への想いの果てに禁忌を犯し、罰を受ける姿を目の前で見た時、堪らないものを感じた。  だから違うのだと否定したかった。 (……だけど)  本当に違うのだろうか。  そう考え出してしまえば、否定など出来るはずがなかった。  彼が目の前にいるのに、変わっていく姿を見て、思わず願わなかっただろうか。  頭の片隅で、ほんの少しでも思わなかっただろうか。  変わらないでほしい、と。  寂しいのだ、と。 「……ん、ぁ……あ、」   ぬちゃり、ぬちゃりと卑猥な水音と、蒼竜の荒々しい息、そして香彩の艶声だけが部屋の中を占める。  (いざらい)に陰茎を挟み込んだまま、蒼竜は器用にもう片方の陰茎を使って、ゆっくりと香彩の陽物の裏筋を擦り上げた。  香彩の吐き出した白濁と、蒼竜の先走りが混ざり合い、淫靡な音を立てる。   『……今の俺にはお前を抱き締める温かい腕もない。あるのはこの鱗に覆われた冷たい身体と、お前を傷付ける爪だけだ』 「りゅ……」  『お前が温かい腕を誰かに求めたとしても、俺にはどうすることも出来ない』 「──っ!」  香彩はもう一度身体を捻って、蒼竜の顔を、そして目を覗き込んだ。  翠水の瞳は、思念以上に感情を語る。  不安に揺らめきながらも、未だ衰えることのない情欲の焔を見付けて、香彩はどこか安堵に似た感情を覚えた。  蒼竜の言動に腹立だしくも思いながらも、同じような不安を抱えている香彩もまた、蒼竜を責めることなど出来ない。  あれだけ香彩の身体を責め立て、熱を胎内(なか)に放ち、思いを交わしたというのに。  強制的に姿を制限される罰が、蒼竜を追い詰めて不安にさせているのだ。  ましてや近々に行われる成人の儀が、拍車を掛けている。  それは香彩も同じだった。  だが心内にある、ありのままの気持ちを吐露しないのは、彼が禁忌を犯す程に自分のことが好きで、執着していることを知っているからだ。 (……じゃあ、僕は……?) (僕は、どれだけ)  貴方に好きだと伝えられているだろう。  蒼竜の陰茎が焦らすように、幾度も幾度もゆっくりと香彩の陽物を擦り上げる。白濁と先走りの混じったぬめりを利用しながら、凹凸のある蒼竜のそれが擦られる度に、甘い疼きが生まれた。  悦楽からくる尾骶の鈍い痛みに流されそうになりながらも、香彩は覗き込んでいた蒼竜の瞳から、つ、と視線を逸らし、その目蓋に接吻(くちづけ)を落とした。  ぐるぐると思念の伴わない唸り声が聞こえる。  りゅう、と艶混じりの甘く掠れた声で蒼竜を呼べば、何かを察したのか陰茎の動きが止まった。 「……聞いて、りゅう」  そう言いながらも香彩は、蒼竜の目蓋に何度も接吻(くちづけ)を落とす。  やがて目蓋に隠された、香彩と同じ深翠水の目が現れると、香彩はそれをじっと見つめた。 「僕が物心ついて、一番初めに覚えているのは、小さな蒼い竜だった。透き通って綺麗な、まあるい翠色の目が、じっと僕を見てて。僕に上掛けを掛けてくれるんだけど、離れて行ってほしくなくて、僕は貴方の爪をぎゅっと掴んだんだ」  こんな風に、と香彩は、卓子(つくえ)に手を付いている蒼竜の大きな爪のひとつを、五本の指で握り締める。  びくりと今度は蒼竜の身体が動いてしまったことが分かってしまって、香彩はくすりと笑った。 「どこにも行かないで、僕が眠るまでここにいてって思った。貴方は……僕の思っていることがわかったかのように、ずっとそばにいてくれた。ぎゅっと握った爪がとても温かくて、心も温かくなって……好きだなって思った。きっとそれからなんだ。僕を見てほしくて、僕に構ってほしくて、いたずらばかりした。そうすれば叱る為に僕を見てくれるって、分かっていたから」    香彩はここで大きく息をついた。  ふわりと香っていた『竜紅人の御手付き(ものである)という名の鎖(あかし)』が、より濃厚さを増して、部屋の中に満ちていく。

ともだちにシェアしよう!