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第78話 無自覚 其の一

『──……ったく、勘弁してくれ』   宙に浮いていた小さな蒼い竜は、そう言いながら『力』を解き、寝台に仰向けに寝転がった。  心なしか顔が熱く感じるのは、決して気のせいではない。  蒼竜の姿になると竜の声帯が人のそれとは違う所為か、話す時は専ら思念での会話となる。人の脳に直接語りかけるような話し方になるのだ。  そんな話の仕方をしていると時折、相手の強い思念や思いがこちらに入ってくることがある。その思いは強ければ強いほど、そして特殊能力を持つ者ほど、より鮮明に伝わってくる。  蒼竜が『力封じ』の紅紐の話をした辺りから、それはじわじわと彼に伝わり、最後に現れたそのあまりにも鮮明な光景に、血が滾りそうになった蒼竜だ。  それは一糸纏わぬ姿にした香彩(かさい)を、衣着を来たままの自分が、姿見の前で犯す姿だった。  ──また今度、ね。今度……貴方が望むように……衣着を纏ったまま、姿見の前で……して。文句は言わないから……だから。  そんなことを言われたのは昨日の昼刻を過ぎた辺りだっただろうか。  だが脳内に入ってきた光景は、それに更に紅紐が加わっていた。    姿見の前で一糸纏わぬ姿にした香彩の、その細い手首は紅紐で縛られ、しかも鴨居から吊り下げられていたのだ。  無体を強いたのか涙を流す香彩のそれを舐め取りながら、更に責め立てる人形(ひとがた)の自分。  紅紐を外した痛々しい痕が白い肌に映え、堪らず噛み付きながらも舐めて傷を治す自分。  そんな光景が全て香彩の脳内で繰り広げられていたのだと考えるだけで、蒼竜は堪らない気持ちになった。    しかもいま香彩は隣の湯殿を使っている。  蒼竜の聴覚は、聞こうと思えば聞こえてしまうのだ。  身体を洗っている水音も。  熱を発散させているその濡れた艶声も。  再び熱を持ちそうになる雄を、香彩への怒りに変えて何とか治める。 (──何だあいつは! そんな願望があるのなら、人形(ひとがた)の時に言ってくれればいいものを) (……って違うだろ! あいつは人が忠告してる最中に何を……!)  しかも香彩の中の想像上での自分が、あまりにも無体を強いる男だった為か、香彩の持つ自分への印象はこういうものなのだろうかと、蒼竜は地味に落ち込みかけた、その時だった。 「……竜紅人(りゅこうと)?」  

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