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第98話 不穏 其の五
びくりと、香彩 の身体が跳ね上がる。
確信を得た蒼竜の冷たい声色に、それが答えなのだと、まさにその通りなのだと、身体が無意識の内に応えたようなものだった。
後頭部を鷲掴みにしていた、蒼竜の手の力が増す。三本の鋭爪が、頭に食い込んでしまうのではないかと思うほど、後頭部を締め上げられて、香彩 は逃れられない痛みに再び、びくりと身体を動かした。
そんな香彩 の反応を、蒼竜は決して見逃すことはなかった。
「……んんっ……」
蒼竜の長い舌を狭い口腔内に捩じ込まれ、余す所なく掻き回される。それは口腔にある紫雨 の痕跡を、全て消すかのような動きだった。
「……っ、は、ぁ……」
激しい接吻 に香彩 は、僅かに口吻 が離れた隙に息を深く吸った。その口の端から熱い吐息と共に、互いの混ざり合った唾液が溢れ、顎を伝い流れ落ちていく。
「んっ……」
それに構うことなく、熱い吐息ごと竜の口吻に塞がれて、香彩 はくぐもった声を喉奥で上げた。
その声の振動を楽しむかのように、蒼竜の滑りのある舌が、根まで入り込み、その先端は喉奥を責める。
ここが弱いことを、いつ竜紅人 に知られてしまったのだろう。
「……ふっ……んっ、んっ……」
上顎の襞から喉奥に、喉奥から襞に向かって、滑りのある舌を擦り上げられるだけで、ぞわぞわとした粟立つものが背筋を駆け上がる。 尾骶の辺りが鈍く痛む。
まるで雄を口淫するような接吻 だと、香彩 は思った。
喉奥の舌の先端から流し込まれる、催淫効果のある甘い唾液を、条件反射のように喉を鳴らして飲み込む。それがあたかも白濁としたものを、無理矢理飲まされているように感じてしまう。
どんなに嫌だと思っていても、真竜の唾液を飲んでしまえば、身体は熱くなる。
喉奥を抜き差しするように舌を使われれば、苦しさと気持ち良さが相俟って、いつの間にか香彩 の頬を涙が伝った。
(……嫌だ……いや……)
(くるしい……)
(……くるしい、のに……きもち、いい……)
頭の中がぼぉうとして、真っ白になって、何も考えられなくなる。
僅かな甘い香りが鼻をかすめたその時だった。
「……んんっ! んっ……──!」
喉奥の一番敏感な場所を、舌先で捏ねるように擦り上げられて香彩 は、びくり、びくり、と身体を震わせた。その衝撃を分散させたくて、目の前にある蒼竜の肩にしがみつく。
熱の名残を全て吐き出すかのように、無意識の内に動くのは腰だ。
ぶわりと、甘い御手付 きの香りが辺りに広がった。
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