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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第108話 花影閑話 ─奇禍遊戯─ | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第108話 花影閑話 ─奇禍遊戯─
作者:
結城星乃
ビューワー設定
108 / 409
第108話 花影閑話 ─奇禍遊戯─
土神
(
つちかみ
)
は自分の神社まで戻ってきていた。 地に降り立った瞬間、樹で眠っていた鳥達が何かを感じて一斉に飛び立ったが、
土神
(
つちかみ
)
は特に意に返さず、あるひとりの人物の気配を探す。 「見つけたぞ」 にぃ、と
土神
(
つちかみ
)
は嗤った。 この一枝を見せれば、
銀狐
(
ぎんこ
)
はどんな顔をしてくれるだろう。きっと悔しさに満ちた表情を見せてくれるのではないか。 そう思うと
土神
(
つちかみ
)
の心は、にわかに晴れ渡る気がした。 再び宙を舞い、
銀狐
(
ぎんこ
)
の元へと降り立つ。 「これはこれは
土神
(
つちかみ
)
様。どうなされました?」 銀狐は突如として現れた
土神
(
つちかみ
)
に、たいして驚いた様子も見せずにそう言った。
土神
(
つちかみ
)
はそんな銀狐の様子を訝しんだが、それがやがて悪意となって
土神
(
つちかみ
)
の目に映った。 「貴殿に、見せたいものがありましてな」 話ながら
土神
(
つちかみ
)
は、先程まで晴れ渡っていた気分が、どす黒く曇り出していくことを自覚していた。 銀狐が
土神
(
つちかみ
)
の突然の訪問に驚かない理由。 (……気配を読んでいたのか) ずっと。 ずっと。 (では、さぞ銀狐にとっては面白かったろうに) 銀狐が神桜の元にいる時、
土神
(
つちかみ
)
は決して姿を現さなかったのだから。 「
土神
(
つちかみ
)
様が、わたくしに。それはどんなものなのでしょう?」 幼い
態
(
なり
)
のまあるい目は、決して純粋に輝いて、興味を持って
土神
(
つちかみ
)
に聞いているわけではないことを物語っている。
土神
(
つちかみ
)
は神桜の一枝を、銀狐に見せようと思った。 だが、銀狐が今手にしているものを目にした途端に、心の中が真っ黒になった。 銀狐は一枝をその手に持っていたのだ。
土神
(
つちかみ
)
は何も考えられなくなった。 まるで体が灼熱の炎で灼かれたかのように熱くなり、反面心は氷のように冷えた。
土神
(
つちかみ
)
のただならぬ気配に、銀狐が逃げ出すのが見える。その後をまるで嵐を背負っているかのような勢いで、
土神
(
つちかみ
)
は追いかけた。
土神
(
つちかみ
)
は、銀狐が妙な穴に飛び込もうとするところの足を掴み、ひっぱり出し、飛びかかり、その体をぐにゃりとねじまげた。そして地面に叩きつけ、何度も何度も何度も何度も踏みつけた。 息も絶え絶えに
土神
(
つちかみ
)
は、銀狐が飛び込もうとした穴へと入る。 ひどくがらんとしていた。 穴の中には小さな寝床と、干された肉と、暖を取るための木の枝があった。寝床にはこの辺りに咲いている小さな白い花が、束になって置かれていた。 何かから目が醒めるかのように、
土神
(
つちかみ
)
は穴の外に出て銀狐を見る。 その手に握られていたのは、木の枝だった。 ただの木の枝だったのだ……。
土神
(
つちかみ
)
は泣いた。 途方もない声で、喘ぎ、自分自身を嗤いながら、泣いた。 膝をつき、銀狐を見つめ、自分の手のひらを見つめ、ひたすらに泣いた。 悲しみとも後悔とも言えない、底知れない悲しさが心の中に占めていた。 だがそれも。 どす黒く、人の叫び声にも似た怨租に染められ、冒されていった。
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結城星乃
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