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第118話 光玉 其の三

 銀の髪に瞳、白づくめの衣着という姿をしている人形(ひとがた)雨神(あまがみ)は、まるでこの優しい春雨(しゅんう)を体現しているかのようだ。  だがその巧緻(こうち)(かんばせ)からは、優しい笑みが消える。  香彩(かさい)を見、蒼竜を見る銀眼は冷ややかだ。  ふたつの『(こん)の光』をその手の平に掬い上げた雨神(あまがみ)の姿は、真竜という尊き存在であるにも関わらず、どこか幽鬼めいているように見えた。『肉』らしきものが、感じられなかった所為だ。時折その存在は、存在そのものを薄くする。透けて、雨神(あまがみ)の向こうの景色が見えてしまうほどに。  媒体を介せずに顕現したのだと、香彩(かさい)は理解した。  それほど性急に、この尊き雨竜が顕れた理由はただひとつだ。 (──壌竜(じょうりゅう)と紅竜の『(こん)の光』は、僕の中に入り込もうとしていた)   それを掬い上げ、阻止したのは目の前の雨神(あまがみ)だ。  ほんの僅かに『(こん)の光』が腹に触れただけで、力が抜けて立てなくなっている自分がいる。  もしもこのふたつの『(こん)の光』が内に入り込んでしまっていたのなら、一体どうなっていただろう。 (きっと……喰らい尽くされる)  自らの力の根源でもある『術力』を。 (──どうして……?)  真竜の最期の時を見たのは、今回が初めてではない。 (……みんな、還っていった)  色んなことがあったけれども、最期はまるで故郷に戻ったような安らかな顔をして、(りょう)の『中』へ還っていったのだ。 (──なのに、今回はどうして……?)  何故、(りょう)の『中』から出て、自分の『術力』を喰らおうとしたのか。  栄養源でもあるそれをたらふく喰らい、早く産まれ出でたかったのか。それとも紅竜の『神気』を借りて浄火したことによる、壌竜(じょうりゅう)の報復なのだろうか。  様々な感情が香彩(かさい)の心の中に芽生えては、根付いていく。  決して消えることのないそれは、不安という形となって香彩(かさい)の心を支配した。  香彩(かさい)と蒼竜を見る、雨神(あまがみ)の温かみのない視線が、余計にそれを増長させる。  幽鬼めいた尊い真竜が、その銀眼に冷ややかさ纏わせたまま、冷たい笑みを浮かべた。 『今の今まで教えられておらぬとはえ……若竜(じゃくりゅう)めは罪深いことだなえ』  今にも消えそうなほど、その存在を薄くしながらも雨神(あまがみ)はそう言う。 『ああ……若竜(じゃくりゅう)にとっては、都合がええかえぇ? 何も知らぬ吾子に埋め込んだ核を『光玉(これ)』に喰わせれば、吾子をあの男に手籠めにされずに済むえ。術力を喰らい尽くされ失くした者に、成人の儀の必要なぞ、果たしてあるのかえ』

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