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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第131話 幽閉 其の二 | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第131話 幽閉 其の二
作者:
結城星乃
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第131話 幽閉 其の二
紫雨
(
むらさめ
)
が
柏手
(
かしわで
)
を、打つ。 水面に落ちる水滴が齎す波紋のように、柏手から発する術力の波動が空間に広がる。 (──……っ!
紫雨
(
むらさめ
)
……っ) それを肌で感じて
香彩
(
かさい
)
は、心の底無し沼に陥ってしまったような、どこからか身体がすっと落ちて行くような、そんな寂寥を感じていた。 術力の波動が、以前よりも明らかに弱くなっている。普段の生活を送る際の、些細な『力』の使い方であれば問題ないだろう。だが四神を従わせ、この国の護守を維持するほどの『力』が、彼にはもう残されていなかった。 (……
蒼竜屋敷
(
ここ
)
の書き変えだって、出来るかどうか……) ただ単に書き変えだけなら、可能なのかもしれない。だがそれによって蒼竜を抑え込み幽閉するものとなると、話が変わってくる。
紫雨
(
むらさめ
)
が二度目の
柏手
(
かしわで
)
を打った。 黄竜が僅かな反応を見せる。
柏手
(
かしわで
)
は力を借りる者への挨拶だ。 一度は地に住まう地霊や精霊。 そして二度目は、真竜に加護を願う時に打たれるもの。 蒼竜を封じる為には、蒼竜以上の神気の持ち主でなければ駄目だ。幸いにもそれは目の前にいる。 (……あとは……) 足りるかどうかだ。
術力
(
えさ
)
が。 「伏して願い
奉
(
たてまつ
)
る。
真竜御名
(
しんりゅうごめい
)
、
黄竜
(
こうりゅう
)
、その
御名
(
みな
)
において、我の呼応に力を貸したまえ」 術力を伴った耳心地の良い艶やかな低い声が、高らかに深更の空間に響き渡る。 合わせた手の内に集まるのは、真竜の神気を誓願して術力と織り成した光の玉だ。 それを空高くへと放り投げ、 「──陣!」
紫雨
(
むらさめ
)
の『力ある言葉』に応じて弾け飛ぶ。 光の玉のあった場所を中心に、半円を描いた結界が蒼竜屋敷を包み込むようにして、広い範囲で展開する。 結界は無事、成されたように思われた。 術力の余韻の残る空気の中、
紫雨
(
むらさめ
)
の乱した息遣いと、
紫雨
(
むらさめ
)
を気遣うような黄竜の、喉を鳴らす音が聞こえてくる。 だがそんな空気を切り裂くかのように、響くのは蒼竜の、突然の咆哮だった。 それは耳を貫かんばかりに鋭く、遠く天にまで届きそうな程、大きく響き渡る。
香彩
(
かさい
)
は思わず耳を塞いだ。真竜の咆哮から身を守る為に張っていた結界が、破られたわけではない。だが咆哮の中に込められた、本能のままの悲痛な感情は、結界を素通りし、直接
香彩
(
かさい
)
に語りかけてくる様だった。 行くな、と。 側にいろ、と。 (……りゅこう……と……っ!) 呼んではいけない。 自分の
御手付
(
みてつ
)
きが、自分を呼んでいると分かれば、活気付いてしまうかもしれない。 そう思いながらも
香彩
(
かさい
)
は、この蒼竜屋敷に封じられる想い人の名前を、心の中で呼ばずにはいられなかった。 駄目なんだ、今は。 今は
蒼竜
(
あなた
)
の側には行けないのだと思っていても、分かっていても、心の中で何度も、その名前を呼んでしまう。 (──駄目だ! だめ……だ。りゅこうと……!) 呼んでしまう。 求めてしまう。
蒼竜
(
あなた
)
の側に行きたいのだと。 今すぐその結界を破って、浚いに来て欲しいのだと、心の一番奥が叫び出す。
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結城星乃
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