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蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する 第144話 成人の儀 其の十 ──淫靡な背徳感── | 結城星乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
蒼竜は泡沫夢幻の縛魔師を寵愛する
第144話 成人の儀 其の十 ...
作者:
結城星乃
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第144話 成人の儀 其の十 ──淫靡な背徳感──
香彩
(
かさい
)
は、熱い息を虚空に吐いた。 明らかに色を伴うそれがどこか可笑しくて、心内で自身を嗤う。
紫雨
(
むらさめ
)
はもう用意を整え、潔斎の場で待っているのだろうか。
香彩
(
かさい
)
は湯から上がり、この湯殿にあるもうひとつの引き戸を開けた。言わば『潔斎の場側』にある、脱衣と休憩の出来る場所だ。
紫雨
(
むらさめ
)
の姿は既にない。 もう行ってしまったのだ。 あの儀式の場所へ。 滴る身体もそのままに、
香彩
(
かさい
)
は気付けば視線はこの部屋にある、もうひとつの戸を見つめていた。この禊場と潔斎の場は繋がっている。あの戸を開けて、ほんの少し
渡床
(
わたりどの
)
を進めば、潔斎の場の中央がすぐに見えるはずだ。 思い出されるのは、広い潔斎の場の中程に描かれていた四神の陣の紋様と、その上に敷かれた白い敷包布だ。 (……あの上で今から僕達は……) どこか他人事のように感じながら、ぼぉうとした頭で
香彩
(
かさい
)
は湯浴衣を脱ぎ、籠へ入れる。 一糸纏わぬ姿で水滴を乾いた布で拭き取り、用意された儀式用の
白衣
(
しらごろも
)
を身に纏う。 そしてまるでいつもの祀りの時と同じ様にな感覚で、髪を結い直す為に姿見の前に立った。 「ぁ……」 今にも消えてしまいそうな声を上げながら、
香彩
(
かさい
)
は震える手付きで白衣を直す。 衣着の合わせ目から見えていたのだ。
竜紅人
(
りゅこうと
)
に付けて貰った、一番色付いた唇痕が。 無意味なことをしていると、思う。 いまこうして着崩れを直したとしても、この禊場を出て潔斎の場に足を踏み入れた時点で、すぐに崩されるというのに。 (……全て晒される)
竜紅人
(
りゅこうと
)
が、蒼竜が、これでもかというほど、自分を愛でたという証が。 真竜としての本能なのか。それとも痕を付けることによって、これは誰のものなのか見せ付けようとしたのか。 後者なのだろうと、
香彩
(
かさい
)
は思う。 白い肌に浮かぶ花びらのような、劣情の痕。特に濃くて一番目につくのは、胸元の情華だ。 (
紫雨
(
むらさめ
)
は何も言わないけど……) 未だに自分の気配は、染まっているのかもしれない。
竜紅人
(
りゅこうと
)
の神気に。 再びふるりと身体が震える。 (……やっぱり僕は、おかしい……) きっとどこかでおかしくなってしまったに違いない。
紫雨
(
むらさめ
)
に見せ付ける為に刻まれた所有の証を晒しながら、神気に染まった身体を、一夜と割り切った
紫雨
(
むらさめ
)
の激情に暴かれる。 その背徳さ、淫靡さに、心は悲鳴を上げながらも、どこかでそれを求めている。 違う、違うと心がどんなに叫んでもいても。 身体はもうすでに熱いのだ。
香彩
(
かさい
)
は再び熱い息を虚空に吐く。 白衣を整え、髪を高く結い直して、禊場を出る。 長く感じる
渡床
(
わたりどの
)
を、一歩、また一歩と歩いて。 辿り着いた潔斎の場の真中に、彼の姿を見つけたのだ。
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結城星乃
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