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第148話 成人の儀 其の十四        ──媚薬──

 くつりと紫雨(むらさめ)の喉奥で笑う声が聞こえた。  笑いながら彼は、空になった自分の酒杯に酒を注ぐ。 「神気に灼かれた人の身体に神澪酒(しんれいしゅ)を取り込めば、媚薬に似た効果が現れるというが……どうやら本当らしい」 「……っ」  紫雨(むらさめ)の言葉に香彩(かさい)は目を見張ると同時に、どこか酷く納得した。通りで初めて竜紅人(りゅこうと)の唾液を飲まされた時に似ていると思ったわけだ。  この身体の熱さは、媚薬効果によるもの。 (……僕がこうなると分かってて……この人は……)  神澪酒(しんれいしゅ)を飲ませたというのか。   はぁ……、と香彩(かさい)の吐く息は、だんだんと荒々しいものに変わっていく。だが紫雨(むらさめ)は特に気に留めることなく、くつくつと笑いながら、酒杯を傾ける。 「神澪酒(しんれいしゅ)は真竜が酔い痴れる酒だ。故に神饌のひとつとして選ばれていることは、お前もよく知っているだろう? いい気分になった所で、こちらの()()()を聞いて頂こうと、俺達も神澪酒(しんれいしゅ)を取り込む。書によれば、過去に人が真竜の御手付(みてつ)きになった例がいくつかあるが、ある一定の神気に胎内(なか)を灼かれれば、真竜にとっての神澪酒(しんれいしゅ)の『()()』が御手付(みてつ)きにも作用するとある」  紫雨(むらさめ)はそう話しながら、幾度となく酒杯を口に運んだ。その姿を見て、神澪酒(しんれいしゅ)の恩恵を受けているのは自分だけなのだと思い知る。紫雨(むらさめ)にとっては毎晩、水のように飲んでいる酒であり、何より彼は酒に強い。爵酒器の大きさから見て、決して酔うほどの量ではないのだ。  酒気を帯びているが、普段とほぼ変わらない紫雨(むらさめ)に、欲に乱れつつある自分を見られ、抱かれるのか。  そう考えるだけで羞恥であり、屈辱であり、歓喜でさえある、捉えどころのない感情に侵されて、融けたような意識が頭の中を支配する。 「それが媚薬効果とは……実に好都合。お前に妙な薬を使わずに済む」 「……っ」  紫雨(むらさめ)の空いている方の手が、香彩(かさい)の頬に触れた。熱く骨張った手を感じるだけで、ぞくぞくと尾骶から粟立つ鈍痛のようなものが、背筋を駆け上がる。  何もなければ身体が熱くなるような薬を飲ませるつもりだったのだと分かって、香彩(かさい)は剣呑な雰囲気の視線を、紫雨(むらさめ)へと向けた。  そんな香彩(かさい)を、紫雨(むらさめ)がくつりと笑う。 「……そう怒ってくれるな。想人(いろ)のいる者との交合だ。どんなに覚悟を決めていたとしても、いざという時になれば拒否反応も出るだろう。嫌だと泣き喚いて暴れても、止めるという選択肢はない。止めてやることも出来ない。俺は力任せにお前を押さえ付け、四神の数だけお前を抱くだろう」 「……っ」

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