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第149話 成人の儀 其の十五 ──口移し──
(……四神の数、だけ……)
その意味を理解して、喉の奥から押し出した声に、狼狽が透ける。それを見透かすように笑う紫雨 の低い声が、首筋辺りをひやりと撫でるようだ。
ふと頬に触れていた紫雨 の親指の先が、顔の輪郭を擦 り、滑るように首筋を擽る。
「……っ」
そこに落ちる香彩 の長い横髪を軽く払いながら、紫雨 の手はそっと横髪を耳に掛けるのだ。
熱い手が香彩 の耳に触れる。
戯れのように。
弱いと分かっている耳裏を、軽く引っ掻く。
「ぁん……っ」
奥歯を噛み締め堪えていた声が、耳裏を触られただけで、甘くて熱い吐息と共に、色付いた口唇から洩れた。
ただ触れられただけ、引っ掻くように触れられただけだというのに、明らかに甘い声を上げてしまったことに香彩 は動揺する。もう既に聞かれてしまった後だと分かっているのに、香彩 は思わず自分の口を手で押さえようとした。
これ以上、戯れのようなふれあいで、艶声を出さないために。
だがそれを耳に触れていた紫雨 の手が、やんわりと遮った。
「あ……」
その手の優しさに何故か逆らう気が起きず、香彩 は素直に紫雨 に従う。
いい子だ、と。
官能的な低い声でそう言いながら紫雨 は、香彩 の頤を指で持ち上げる。
「止めることの出来ない儀式ならば、痛みよりも悦楽の方がいいだろう。尤もお前の性格ならば痛みの方が、奴に対する自戒になると考えるだろうが……生憎と俺にそんな趣味はない」
香彩 は紫雨 を見る深翠を、切なげに細めた。
見透かされている、と思った。
与えられるのが痛みならば、香彩 は自分に対する罰のように、それを受け取めただろう。
だが与えられるもの全てが快楽なのだとしたら。香彩 の心内に浮かぶのは自分への罰や戒めなどではなく、竜紅人 に対する罪悪感だ。
紫雨 が酒杯を傾け、口の中に酒を含む。
何をされるのか理解した香彩 は、受け入れる為に目を閉じた。
口移しされる神澪酒 は、酷く熱くて罪の味がした。口の中にとろりと入ってきたそれをこくりと飲めば、それだけで身体を疼かせる薬に変わる。
数回に分けて飲まされた後、僅かに口唇が離れた。
「今宵限りだ。痛みではなく悦 いのだと、お前を啼 かせたいと思うのは当然のことだろう？」
それこそ神澪酒 を飲む度に、今宵に起こったことを思い出させたいと、思うくらいには。
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