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第152話 成人の儀 其の十八★     ──春情の接吻──

「──あ……っ」  まるで気に入った酒器を愛でるかのように、紫雨(むらさめ)の手は幾度も香彩(かさい)の白い太腿を撫で上げた。  肌の感触を確かめるように、それを覚え込むように、同じ場所を行き来する。時にはさらりと撫で、ぐっと掴み、またはじっくりと揉み込む。 「ん……っ、は……ぁ、っ」  そんな手の動きが焦れったくもあり、だがじわりじわりと灼かれつつある悦楽に、香彩は堪らないものを感じた。 「あ……ぁ……」  紫雨(あなた)に触れられている。  そう思うだけで、強い背徳感と快感でどうにかなりそうだと思った。 (……足を撫でられているだけなのに……)   その手の熱さが、自分を求めている証のようだと考えるだけで、ふるりと白い腿が震える。 「んんっ……」  全身の血が沸き立ち、香彩はついに甘く啼く色声を隠すことが出来なくなっていた。  そんな香彩の啼き声に、性急に熱を増した紫雨の息遣いが耳に吹き込まれれば、香彩は一層高く啼く。  紫雨の首筋に、知らず知らずの内に熱い息を吹き掛けながらも、両腕は彼の首筋に絡ませたまま、香彩は顔を上げた。  かさい、と。  名を呼ぶ紫雨の声は、今までに聞いたことないほど、艶があり掠れて低い。  ぎらぎらとした獰猛な獣のような深翠を間近で見つめながら、香彩は目を閉じる。  途端に落ちてくるのは、噛み付くような接吻(くちづけ)だった。太腿に触れていた紫雨の片方の手が、逃げられないように香彩の後頭部を掴む。もう片方の手は太腿から衣着の中へ入り込み、ゆっくりと(いざらい)、そして艶かしい括れのある腰を、撫で上げていく。 「……ん、んんっ……」  敏感な場所へ直に肌に触れられて、香彩はくぐもった声を漏らした。だがそれすらも遮るかのように、香彩の口腔内に入り込んだ舌は、香彩の弱いところを蹂躙する。  舌をねっとりと搦み取られ、甘く噛み、柔く鋭く啜られれば根の部分が、つんと痛む。だがそれすらもすぐに悦びに変わる。舌先で根から裏側を突付かれ(なぞ)られれば、香彩の身体は面白いほどびくりと反応した。  接吻(くちづけ)最中(さなか)に、香彩は熱くて甘いため息を漏らす。  紫雨の衣着を握り締める手が、身体の奥に湧き上がる甘い焔に震え出した。それは幾つも幾つも湧き出ては、身体に灯っていく。  舌は思う存分に香彩の舌に絡み、紫雨に甘噛みされれば、口の端から透明な欲の蜜雫が、とろりと滴り落ちた。 「……ふっ……んっ!」  紫雨の熱い舌先は、次に弱いと知られている上顎を擽る。ざらついた部分を硬くした舌先で攻められれば、あまりの気持ち良さに、香彩は頭の中が蕩けそうだと思った。  僅かに残った理性と冷やかな部分が、与えられる愛撫によって、悦楽へと染まっていく。  ふと口唇が離れ、僅かな隙間が出来た。  はぁ……とお互いの熱い息が口唇に触れる。それすらも心地よく、擽ったくて欲が灯る。ただ接吻(くちづけ)を交わしただけだというのに、香彩の翠水の瞳は春情に染まり、陶酔の涙を浮かべていた。

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