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第154話 成人の儀 其の二十★      ──鄙陋──

「……んんっ……!」   新たに己の唇痕を落とした場所から、紫雨(むらさめ)はゆっくりと香彩(かさい)の白い肌を堪能するかのように、首筋を舐め上げる。  そして耳の下の付け根を軽く食み、再びじっくりと耳裏を舐め、ある一点で口唇が止まった。 「……そこ……っ、やっ……」  その場所は。  竜紅人(りゅこうと)から初めて唇痕を受けた場所だ。  そして初めて紫雨に見つかった場所だ。  あの時の唇痕は、すでに薄くなってはいるが消えてはいないはずだった。  すぐ側で荒々しい紫雨の息遣いと、香彩の名を呼ぶ声が聞こえてくる。  ああ、来ると。  思ったその時だ。 「──っっ!! あぁぁっ……!」  紫雨にしては鄙陋(ひろう)な肌の吸い方だった。空気を含んで強く激しく吸われた所為か、時折厭らしいまでに口唇が鳴る。それでも彼は構うことなく、舌を使いながら残酷なまでに肌を吸うのだ。  この耳裏にあった唇痕を初めて見た日から、紫雨には何か思うことがあったのかもしれない。そう思えてしまうほど、紫雨は執拗にその場所を責める。まさに塗り替えられているのだと香彩は思った。  吸われる度にちくりとした痛みが、背筋を駆け上がる。それは何とも言えない喪失感を伴いながらも、その喪失感ごと悦楽の熾火となった。  その証拠にすでに勃ち上がっている香彩の屹立からは、とろりと精蜜が零れ、紫雨の下衣に染みを作っている。  心は戸惑い、どこかで嫌だと思っていても、神気と神澪酒に満たされた身体は、色欲と別の昏い感情を伴って、香彩の表面に現れるのだ。  紫雨(あなた)も嫉妬してくれていたのか、と。  やがて満足したのか、(わざ)とらしい唇音を慣らし、獣のような息遣いを上げて、紫雨は肌吸いを止める。  つつと耳裏を舐め上がった熱い舌先は、耳輪に辿り着く。お前の弱い所は、お見通しなのだといわんばかりに甘噛みされれば、香彩の身体がぴくりと跳ね上がった。 「んんんっ……! はぁ……ぁ……」  舌はじっくりと耳の襞を舐め、耳孔に辿り着く。焦らすようにその縁をぐるりと舐め責め、やがて紫雨は硬くした舌先を、耳孔に突き入れたのだ。 「──あ、あぁ……耳、だめ、っ……」  舌を抜き差しされる度に感じる深い愉悦と水音に、頭の中まで濡らされそうだと思った。一頻り、ぐるりと耳孔を舐めると紫雨は、耳の縁を軽く食む。 「……感じるのか」  そう話す紫雨の声音に、どこか嘲笑うような響きがした。それを打ち消したくて、そしてどこか素直に従いたくない性質が出て来て、香彩は首を横に振った。  それでも与えられる刺激に、身体の奥から滲み出る熱の甘さがやりきれない。それは鈍痛と共に 尾骶に溜まり、ぞくぞくと背筋を駆け上がるのだ。  香彩のそんな態度に紫雨が、くつくつと笑う。 「俺に嘘を付くなど……いけない子だ、香彩」 「あ……」

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