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第155話 成人の儀 其の二十一★       ──痛みの痺悦──

 嗜虐を含んだ官能的な低い声が、耳に吹き込まれる。  仕置きだ、と。  紫雨(むらさめ)香彩(かさい)の耳輪を強く噛んだ。  それは香彩が守っていたある一線を、心の冷ややかな部分を、容易く壊す。堰を切ったように溢れだす愛欲に、香彩は色に濡れた艶やかな声を上げるのだ。 「んんっ……や……あぁぁ……はぁ……っ!」  先程とは違う甘さを含んだ色声に、紫雨は笑いながら強弱を付けて、香彩の耳輪を幾度も噛む。  香彩は息を乱して啼きながら背中を反り、空気を求めてその白い喉を紫雨の前に晒した。  耳を責めていた紫雨は、耳裏そして首筋へと口唇を下げ、やがて辿り着いた喉元に食らい付く。 「あ……あ……」  僅かに出ている喉仏を軽く含まれながら舐められて、香彩は湧き出てくる不思議な悦楽に耐える為に、紫雨の肩を掴んだ。次第にその刺激は強くなり、紫雨が角度を変えて晒された白い喉を甘噛みする。  もどかしいような喜悦が、淡い痛みを凌駕していく。  まるで補食のような愛撫に、一等、身体が震えるのは、決して恐いからではない。  ある意味恐いのかもしれないと香彩は思った。それは紫雨自身にではなく、こんな風に彼に責められて、悦に浸り始めた自分の身体の浅ましさが、恐いと思った。 (……こんなの……)  全て神気と神澪酒の所為だと思いたかった。媚薬効果があるのだと紫雨は言っていたのだ。だからその所為だと思いたかった。  だが。  紫雨は食らい付いた喉に、情華を咲かせた。その噛まれた時の痛み、そして唇痕のぴりっとした痛みが、どうにも堪らない。 (痛いのが……気持ちいいだなんて……)  絶妙な力加減で施される、甘い痛みに酔い痴れる。同時に酷く倒錯的な感情が身体を支配するのは、竜紅人(りゅこうと)の時にはなかったものだ。紫雨だからこそ感じる深くて(くら)い愉悦は、それだけでもう一種の媚薬だ。  その低い声も、熱い大きな手も、甘い痛みを与えてくれる口唇も。香彩の尾骶と身体の一番奥を酷く疼かせる。 「ん……っ」  そんな香彩の僅かな変化など、紫雨には既に見透かされているのだろう。  紫雨は白く浮き上がるような香彩の首筋を、執拗なまでに責める。先程とは反対側の耳元に顔を埋めて、軽く食みながらも痕を残していく。  その間にも彼の手は、香彩のきめ細かい白い肌を堪能するかのように全身を這い回った。引き締まった足首から太腿を撫で、(いざらい)から腰にかけての曲線を特に気に入ったのか、何度も何度も撫で上げる。その大きく熱い手から移される熱にもまた、酔いそうだと香彩は頭の片隅で思った。  紫雨の手はそのまま脇腹を撫で、胸へと辿り着く。やがて熱くて乾いた指が、顕になった胸の上を滑らかに這い回り、頂きに触れた。 「──ほぉう? 既に熟れている。淫靡なことだ」

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