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第161話 成人の儀 其の二十七★       ──倒錯──

   かさい……、と。  欲に掠れた官能的な低い声で呼ばれて、香彩(かさい)はゆっくりと顔を上げた。  その翠水の瞳を熱に潤ませ、桜色の可憐な唇を薄っすらと開いたまま、呼吸を乱し悩ましげな吐息を溢しながら。 「……ぁ、むら、さ…め、ぇ…」  熱い吐息の合間に香彩は、甘く蕩けたような声色で紫雨(むらさめ)を呼び、見つめ返した。  気付けば紫雨の吐息が口唇に掛かる程の近い距離に、彼の端正な顔がある。香彩はぼぉうとしながら、紫雨の薄い口唇をただ見つめていた。 「お前にそんな声を出されると、堪らなく悪いことをしている気分になるな、香彩。……まさかこんなにも背徳的で、倒錯的な気分になるとは思いも寄らなかった」  それが酷く興奮する。  くつりと喉奥で紫雨が笑ったと思いきや、食らい付くような接吻(くちづけ)が降りてきた。  素直に応じた香彩は、目を閉じながら自分からも、強くそれを求めて舌を差し出す。  荒々しく吸われるものだとばかり思っていたが、食らい付いた勢いとは裏腹に、ねっとりと絡み付き吸い上げる紫雨の舌は、酷く優しいものだった。 「…んんっ……ふっ…」  舌の付け根を今度は擽るようにじっくりと舐められて、つつ、と蜜が香彩の口端から溢れ出る。それに構うことなく今度は歯列を丁寧に責め、やがて上顎に向かった。  ぴくりと香彩の身体が動く。  紫雨が先ほどよりも深くて熱い接吻(くちづけ)を施しながら、寄り掛かる香彩を片腕で胸に抱いたまま、背後の臥牀に背中から柔らかく横たわった。  紫雨の上に跨がったまま胸の上で寝そべり、接吻(くちづけ)を受けている。そんな体勢に香彩は、くらりと眩暈を起こしそうになりながらも、身の置き所のない気分がして、薄っすらと目を開けた。  すぐ目の前にあるのは、紫雨の双眸だ。  香彩よりも深みのある翠水は、先程の余裕をすっかり失くしたかのような、一際強い欲情の熱を孕んでいるようにも見えた。それが酷く鋭くぎらついても見え、香彩の背中をぞくりとさせる。堪らず戦慄きながら、彼の纏うはだけた白衣に強くしがみついた。  紫雨は瞳を少し緩ませると、接吻(くちづけ)を交わしたまま、もう片方の手を香彩の(いざらい)に滑らせた。  彼の手から、くちゃり、くちゃりと卑猥な粘着音が聞こえてくる。それが先程、彼の掌に放った自身の熱を、指先で捏ねる音だと気付いて、香彩の顔は朱を帯びた。 「──っ、んんっ…!」  やがて香彩の後蕾に辿り着いた紫雨の指先が、じっくりとまあるく円を描くように、襞に白い凝りを塗り付ける。 「…んんっ! ふっ……」  くぐもった声を上げながら、香彩は紫雨の指から逃げるように腰を上げた。だが体格差の所為か、紫雨の指はやすやすと後蕾に辿り着く。そしてまるで襞から解すかのように、幾度もまあるく触れるのだ。

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