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第162話 成人の儀 其の二十八★        ──誑かされた冷心──

(……ちが、う…)  ああ、ちがう、と。  口唇が解放され、尾骶の鈍い痛みを感じながら、腹の奥底から這い上がってくるかのような深い法悦に翻弄されながらも、心のどこかが香彩(かさい)の身体にそう訴える。  ちがうのだと。  心のどこかが、(しき)りに騒ぐ。  身体の厚み。  手の大きさや、触れられた時の感触。  その体温から、自分を包む匂い。  注がれる声音も、その吐息さえも。  解す指遣いすらも。   (……今更、なにを)   何を思うのかと、香彩は心内で自身を嗤う。  熱を吐き出して、心の冷えた部分が蘇ってしまったのか。  それとも秘処に触れられたことで、心の熱い部分と冷えた部分が生まれて、分かれてしまったのか。  両方でもあるような、そうではないような不思議な心地がした。  紫雨(むらさめ)の指が齎す快楽に溺れそうになりながらも、ちり、と心を焦がす拭えない違和感に、心と身体が震える。 (……違う)  苦い呟きを胸中で噛む。  そんな側から、じわりと悦楽に侵されていく心。 「──あ……っ」  襞を念入りに円を描くようにして解していた指先が、まるで様子を見るように浅く侵入してきた。  息を詰めて強張る身体が、咥えさせられた指を喰い締める。痺れるような甘さが否応なく肌を熱くさせるのとは裏腹に、背筋をざわめかせる違和感が、やけに冷たい。  違う、と。  幾度思っただろう。  いま自分に触れるこの指先は、この熱さは、肌に馴染んだ彼のものではないのだと。  身の裡に入っていく指の、たとえばその爪の感触や、関節の硬さ、太さや、掌そのものの宿す体温ひとつを取ってさえ。  違うのだと。  今更ながらに思い知る。  香彩は今一度、身体を震わせた。 (……紫雨の言ったとおりだ)  いざとなれば拒否反応も出るだろうと言って、媚薬効果になると知っていて敢えて神澪酒(しんれいしゅ)を飲ませたのだ。  もしもあの酒を飲んでいなければ、自分は今頃、拒絶反応のままに紫雨に対して暴れて、術を使って抵抗していたかもしれなかった。  そうなれば紫雨は力尽くで抱いただろう。彼は儀式が始まる前に宣言していたのだ。  ──止めるという選択肢はない。  ──止めてやることも出来ない。俺は力任せにお前を押さえ付け、四神の数だけお前を抱くだろう、と。  媚薬の効果は絶大だった。  どんなに、違う違うと、心が冷えていても、一度(ひとたび)与えられた法悦は、心の深くにまで浸透し、冷えた心の部分を熱く塗り替え灼いてくれるのだから。  

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