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第168話 成人の儀 其の三十四★       ──侵入者──

 とても美味しそうで、どこか淫らな感じがして。  導かれるように、もしくは吸い寄せられるように、香彩(かさい)は熱い紫雨(むらさめ)の舌に吸い付いた。  唇を使って、まるで彼の男根を口淫でもするかのように、淫靡な音を立てながら抽挿する。そして舌を軽く甘噛みすれば、紫雨のくぐもった熱篭りの声がした。  かぁっ、と香彩の身体が一気に熱を帯びる。  紫雨の成熟した男の色香を纏う艶声を、自分が出させた。そう思うだけで、身体の芯で燻っていた熱が、ぞくりと背筋を駆け上がる。  もう熱くて堪らない。  熱さの感じるままに、やがて舌を絡ませながら、香彩が紫雨に口付ける。  主導権は直ぐ様、紫雨に変わった。  巧みな舌遣いで香彩の口腔内を蹂躙し、一番弱い上顎を責め立てる。  その間も紫雨の指先の動きは止まることはない。後蕾の窄まりを拡げていた二本の指は、蜜壺にほんの少し浅く指を埋め込ませたかと思うと、強めに掻き回し始める。 「──んんっ……! んっ…ふっ、んっ……」  喉奥でくぐもった声を上げながら、紫雨の接吻(くちづけ)に応えている内に、香彩は再び胎内(なか)で軽く達した。  小刻みに身体を震わせる香彩を見て、紫雨が接吻(くちづけ)から解放する。舌と舌を、つつ、と尾を引く銀の糸に構うことなく、低く掠れた官能的な声色で香彩の名を呼んだ。  言え、と紫雨が言葉を紡ぐ。  誰に仕込まれたのだ、と。  吐息が唇に掛かるほど、近くで囁かれる言葉に。  欲と嫉妬の焔に灼かれた深翠の目に。  香彩は追い立てられるかのように、熱い吐息を洩らしながら、告げるのだ。  竜紅人(りゅこうと)、と。 「ほぉう? それはそれは是非とも実践で御教示頂きたいものだ」    なぁ、竜紅人(りゅこうと)。   「……え……」  紫雨が何を言ったのか、香彩は理解できなかった。  何が起こっているのか、それすらも分からなかった。  くつりと喉奥で笑う紫雨の、ぎらついた深翠の視線が、香彩の後ろを見ている。 「……来たな」  紫雨がそう言った刹那。  ふわりと鼻腔を掠める森の木々の香りに、香彩の身体がびくりと反応し、身体を起こす。 「あ……あ……」  動揺する香彩を気にもせず、まだ紫雨の指が入ったままの後蕾に手を伸ばす存在に、香彩は信じられない思いでいっぱいになった。  何故ここにいるのか。  (りょう)によって抑えられていたのではなかったのか。  問いたい声は、後蕾に入ってくる指によって、艶声へと変わる。 「……っ、やぁぁぁっ、りゅ……!」  今にも補食せんとばかりに、自身の唇を舐めながら、ぎらついた伽羅色の瞳を香彩へと向ける、人形(ひとがた)の竜紅人がそこにいたのだ。  

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