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第171話 成人の儀 其の三十七★       ──狂宴──

 きっと紫雨(むらさめ)の言葉は、竜紅人(りゅこうと)にとって図星だったのだろう。  香彩(かさい)胎内(なか)を責める指を決して緩めることなく、紫雨が寝台の側の卓子(つくえ)の上に乗っていた爵酒器に手を伸ばした。  自身の上で濃厚な接吻(くちづけ)を繰り広げる香彩と竜紅人を、まるで肴にでもするかのように、紫雨は少し身体を起こし、爵酒器に直接口を付けて神澪酒を呑む。  背徳による愉悦に笑みを浮かべながら、くつりと紫雨が喉奥で笑った。 「だがな竜紅人よ。このことで今後、香彩が何を考え、何を思うかは香彩次第だ。そうだろう?」  ぴくり、と。  紫雨の言葉に反応を示したのは、今度は竜紅人の方だった。  荒い息を吐きながら、香彩を唇から解放した竜紅人が、香彩の舌と己の舌の間に引く淫靡な糸を切り、紫雨の方へと向く。  わかっている。  竜紅人のそんな言葉を、香彩は聞いた気がした。  濃厚な真竜の唾液をこれでもかと味わった香彩は、力が抜けてしまったのか、甘い息と切ない艶声を上げながら、紫雨の胸の上に撓垂れるように倒れ込んだ。身体を前に倒してしまっても尚、香彩の悦いところを追い掛けてくる四本の指に、身体が戦慄く。 「……まぁいい。これ以上、野暮なことを言うつもりはない。今は目の前の、旨そうに調理中の獲物に食らい付きながら、俺は義務を。お前は目的を果たすのみよ」  紫雨の紡ぐ言葉に、香彩は無意識の内に胎内(なか)にある紫雨の指と竜紅人の指を、きゅうと食い締めた。  想像が正しければ、その言葉の現す意味はただひとつ。 「……俺を消すつもりはない、と?」  どこか狼狽の透ける竜紅人の物言いに、滑稽だと言わんばかりに紫雨が嗤った。 「思念体は本能的な部分が強く出ると言うが、やけに理性的だな竜紅人。思念体(おまえ)を消すつもりならば、そもそも香彩にお前の名を呼ばせたりせんよ。それにあの媒体の唇痕も、もっと早い段階で上書きも出来た」  そうだろう? と爵酒器を傾けながら、紫雨は言う。 「お前を消すのも残すのも、香彩の深層心理を考えると一種の賭けのようなものだ。だが先程よりもこの子の啼く声が柔らかくなった。それが答えだと俺は思っている。それに勝手な物言いかもしれないが……身体は正直だ」  こんなにも俺とお前の指を、食い締めて放そうともしない。 「……一夜の情事よ。ならば今宵だけの狂宴と割り切って楽しむのも一興」    

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