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第173話 成人の儀 其の三十九★ ──口淫──
「……ぁ…はぁ……」
その様子に紫雨 があっさりと唇を解放した。淫靡かつ透明な糸を切る為に出される舌が、堪らなく美味しそうでとてもいい香りがして、香彩 は思わずそれを貪ろうとする。
だが紫雨は喉奥で笑いながら、舌を引っ込めた。
「愛でるのは俺の口の中ではないぞ香彩。神澪酒に浸されたお前の小さな口で愛でるのは何か……分かるだろう?」
紫雨が顎でしゃくるその先に見えたもの。
「あ……」
香彩は無意識の内に、喉を鳴らす。
紫雨の上に跨がり座る香彩のすぐ横、視線の高さに竜紅人 の腰があった。すん、と空気を吸い込めば酒香よりも濃厚な、森の木々の香りがする。帯と下衣で押さえ付けられていても尚、存在を主張するそれが苦しそうに見えて、香彩はそっと手で触れた。軽く撫でれば竜紅人の息を詰める様子が伝わってくる。香彩が帯に触れ、それを解こうとすれば、竜紅人がそれを遮った。竜紅人が自らの手で帯を緩め、下衣を少し開く。
隙間から現れたのは、腹部に付くほどに雄々しく反り返った剛直だった。その肉茎の表面には、物々しくも太い血管が浮き出ていている。そして赤黒く膨張した亀頭の淫口からは、とろりとした先走りのものが垂れ流れていた。剛直はこれまでの香彩を散々啼かせて来た物だと主張するかのように、てらてらと濡れ光り、外の空気に触れたことでより濃厚な竜紅人の香りが漂い、香彩の鼻腔を刺激する。
その香りに誘われるかのように。
先走りを滴らせる肉茎の先端に、香彩は口元を寄せた。
濃厚な神気の香りを近くで感じて、くらりと眩暈がする。
真竜の雄の体液には媚薬の効果がある。特に濃厚なのはその剛直から吐き出される、白濁とした熱だ。先走りの香りだけで、胎内 が開いて濡れ、受け入れる為の準備を身体がしているのだと分かる。胎内 から溢れ出した蜜が、紫雨だけではなく竜紅人の指をも、しとどに濡らしているのを想像して、香彩は息を震わせた。
舐めて咥えてしまえば自分が本当にどうなるのか分からない。だが目の前で匂い立つ想い人の、濃厚な森の香りに誘われるかのように、香彩はその先端に口付け、やがてしゃぶりついた。
「……っ、かさい……っ!」
息を詰めて香彩の名前を呼ぶ竜紅人の声に、余裕が感じられない。それもそうだろうと、香彩は神気と神澪酒に侵された頭の隅でそう思う。神澪酒で悦びを感じるのは香彩だけではないのだ。
猛々しい竿に舌を絡ませる。時に愛おしそうに竿を頬ずりしながら、雄の根元に舌を這わせる。舌先を硬くして裏筋を舐め上がり、やがて先端を吸いながら軽く口付ければ、ぴくりと竜紅人の身体が動いた。
そんな竜紅人の反応と、口淫をする香彩を見て、ほぉう? と感嘆の息を漏らす紫雨の声に、気持ちが昂る。
香彩は舌を絡めながら吸い付いていた竜紅人の雄を、口腔の最奥まで咥え込んだ。
卑猥な音を立てて吸えば、先走りの甘い蜜が、口の中に滴り落ちてくる。
(……もっと)
もっと欲しい。
もっと……。
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